「NHKはネットで受信料取れない」と断言できる訳 イギリスやフランスの「見直し」どう影響するか

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もう一つの観点が、NHK独特の公共放送としての姿勢だ。先述の通りBBCは受信料を払わないと罰則があるが、NHKの場合、そこまで厳しくはない。最近は受信料を払わないと裁判を起こしたりはするが、処罰は受けない。

そして面白いのが、受信料契約をしてなくても視聴できてしまうこと。スクランブルをかけると有料放送になってしまい、WOWOWと同じ立場になってしまう。払わなくてもとりあえず視聴できるから、災害時などでは情報を受けることができる。それこそが公共放送なのだ。

テレビの受信料は、アンテナがある家を訪問して徴収すればいい。だがテレビを持たない人からネットのみで受信料を取るにはそんな判別材料がないので、スクランブルをかけるしかないだろう。そうすると、テレビでの公共放送の姿勢と矛盾する。ネットでは有料メディアと同じポジションになってしまう。

受信料について罰則はないし、払わなくてもとりあえず視聴できるのに、公共放送の価値を認めて8割の世帯が払ってくれている(NHK2021年度第4四半期業務報告書では支払率80.7%)。これを私は、非常に美しい姿勢であり、公共放送と国民の理想的な関係だったと思う。でもそれはあくまで放送の形態だったから成立したことだ。そしてテレビが世の中との唯一の接点だった中高年だから納得できた。スマホ世代には通用しない。つまり結局、ネットだけの受信料は「ムリ」なのだ。

ネットは「付帯サービス」とするしかない

テレビ放送について受信料を取る。ネットでの情報配信は国民へのサービス。そうするしかないと思う。実際、ラジオはいまそうなっている。同じようにネットも、そこから受信料を取る場ではない。NHKは公共放送から公共メディアへと謳っているが、実際にはこれからもテレビを中心にした公共放送で、ネットもラジオ同様、付帯サービスと捉えるべきだと思う。そして公共放送としての価値を感じて受信料を払ってくれる人は減っていくだろう。新聞社や通信社が心配しなくても、NHKの予算規模は縮小し、影響力は減退すると私は思う。

ただ、そうだとしてもNHKはなくならないとも考えている。それは放送事業は今後急速に規模を縮小するが、なくなりはしないからだ。

2010年代以降、私は配信サービスを求めて、使い倒し、浸ってきた。その私の感想は、配信だけではメディア生活はちっとも満足できない、ということだ。放送と配信を両方うまく使うようになる。その均衡点が今後徐々に見えてくるだろう。NHKの存在意義はそこにまだあるし、放送全体の中での存在感は高まると思う。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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