「経済的弱者は自己責任」論争の知られてない本質 新自由主義者は「助ける必要ない」とは言ってない

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♂:すみません。まだ、どう違うのかよく分からないんですけど……。

仲正:つまり後者の、過剰に疎外論的なレトリックを使う主張だと、新自由主義者なるものの心の中を勝手に想像し、そこに新自由主義的な世界観、社会の設計図のようなものがあると想定し、社会の中でのあらゆる負の現象がそれに基づいて起こっているかのように説明しようとする陰謀論的な見方に通じます。秋葉原での無差別殺傷事件は、新自由主義的な自己責任の論理のひずみによって生み出された、というようなかんじですね。

貧乏人や障害者が事件を起こすたびに、弱者を放り出してしまう新自由主義の必然的な帰結だと言う。いろんな事件が起こって、体感治安が悪化して、監視カメラの設置など、治安対策が強化されると、「まさに新自由主義者の狙い通りになっている」と言う。

望ましくないことにはどれも複雑な経緯がある

世の中にはいろいろ望ましくないことが生じていますが、個別に見ると、どれもかなり複雑な経緯をたどって生じてきているわけで、それら全てが、新自由主義的な世界改造計画のようなものに沿って動いているかのような言い方をしても、何にもなりません。全ての負の現象を生みだしている、悪の究極実体などないのですから。

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若者の「自己責任」の問題に話を戻しますと、正社員になりたくてもなれなかったり、職が全然なくてニートになったりするまでの間に、いろいろな人生の選択があったはずです。極端なことを言うと、大麻を栽培したり、重大な交通事故や障害事件を起こしたりして、警察に捕まって大学を退学になり、まともなところに就職できなかった若者でも、新自由主義の犠牲者になるんですかね? 

やる気が出ないので大学の授業に全然出なくて、留年を繰り返し、まともな企業に採用してもらえなかった若者は、どうですか? それほど極端な例ではなくても、自分が負の帰結を回避するために本気で努力をしたら、もっといい職に就ける可能性があった、という人は多いと思います。また、フリーターの生き方がやっぱりいいという人もいるでしょう。その人のそれまでの生き方を全体的に検証しないと、自業自得でそうなっているのか、それとも誰から見ても気の毒な犠牲者なのか分かりようがありませんよね。

仲正 昌樹 金沢大学法学類教授

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なかまさ まさき / Masaki Nakamasa

1963年広島生まれ。専門は、法哲学、政治思想史。東京大学教養学部理科I類を経て、東京大学教育学部に進学。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。著書に『集中講義! 日本の現代思想』『集中講義! アメリカ現代思想』『いまこそハイエクに学べ』『今こそアーレントを読み直す』『ハイデガー哲学入門』『カール・シュミット入門講義』『〈ジャック・デリダ〉入門講義』『精神論ぬきの保守主義』他多数。

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