戦後日韓関係を舞台裏で支えた韓国知識人の独白 知日派知識人・崔書勉のオーラルヒストリー

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福田先生は、自分の子分がそういうふうに立てているし、約束はきちんと守る。私が日本にいるあいだ感じたのは、多くの在日韓国人は差別待遇を受けたと言いながら、「あなたはどのぐらい受けたの?」とよく質問を受けるけれども、私はその質問がある度に、「俺は差別なんか受けた覚えはない。強いて差別ということを論ずれば、逆差別は受けたことがある。私が日本人だったら、総理大臣とどうやって会えるの? 韓国人だから、外国人だから大事にしてもらう。だから逆差別を受けたけれども」ということで対抗するが、本当に心のなかでは、私はよき時代に、よき人たちに韓国人だから大事にされたのであって、少なくとも私に実力があってそういう待遇を受けたとは少しも思いません。

そういうことでいい例は、私が「先生、私の友達です」と紹介したら、あなたを日本人と思ったら握手しませんよ。「韓国人です」と言ったら、「おお、やあやあ」と。これは、まったく逆差別じゃない。岸信介先生(編集部注:元首相)もそうだし、日本人と聞いたら握手しないんだね。韓国人だと言ったら、「やあやあ」と握手をしている。私が受けた日本人の印象のなかに、そういうのが一つあります。

――その部分もありますが、崔先生なりの人心掌握も何かあると思いますね。

 たくさんありますよ。岸先生の場合も、私は約束して1時間遅れたことがあるんだけれども。怒ると思ったら、「やあやあ、ごめんなさい。わしの政治が悪くて交通渋滞。まったくわしの責任だ」と。いやあ、岸のあの戦術にほんと……(笑)。私が日本人だったら、「なんだよ、おまえ、こんな遅れて」と言ったでしょう。

朴大統領「三菱の社長と会わせてくれ」

崔 あるとき朴大統領が、「院長、東京に帰ったら三菱の社長を一回連れて来てくれないかな」と。僕は、社長なんか知るはずがない。心のなかで、大統領は俺をこんなに重きを置いているのか。これは実現させないとだめだなと。帰って、行かないようなところと相談して、三菱が韓国に行くことに決めた。大統領に「何月何日に行くから、面会の準備をしてくれ」と。僕は意気揚々としているのに、韓国の新聞を見ると同じ日に三井を呼んでいるんだよ。しかも、三井に先に会うんだ。三井10時、三菱11時。俺に三菱だけ頼んで、何の恥をかかすためにこんな……。本当に苦しかったが、とにかくその日が来て、俺は二度とこんなことはしないと。三菱に顔見せができない。

『崔書勉と日韓の政官財学人脈-韓国知日派知識人のオーラルヒストリー』(同時代社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

終わったあと三菱から、「いや、ありがとう。やっぱりあんたは違う」と。聞いてみると、大統領はバランスをとるんだ。三菱に用があって会いたいんだが、これだけ会うと、大統領として三井に会っておかないと具合が悪い。これが、朴正煕のやり方だ。それで、三井を呼んだ。二人同格だ。しかし、誰が見てもあの当時は三井が上ですから先にした。10時に三井が行って挨拶をして、意気揚々なんだ。「やっぱり三井を先に会わせてくれた」と。三菱は、とにかく大統領が会ってくれるから行った。

11時半頃、「社長、きょうお昼の約束がある? 一緒に食事をしましょうよ。あんたは本当にいいことを言ってくれるから、約束があるならば電話をしてその人を呼んでもいいよ」と。そうしたら、この三菱の社長は涙が出るほどありがたいんだ。「約束はありません」と言って、昼飯を一緒に食べて出てくる。なんと光栄な……秘密ですから言わないけれども出てきて、「崔さん、ありがとう」と言われたことがありました。あなたのおっしゃる、会社の社長はどういう人に会ったかということを鮮明に覚えています。そういう苦労をしたんだよ。あれ以来、二度と経済人は……(笑)

――三菱とか三井の社長なり会長が朴正煕大統領に会うときは、会話は日本語ですか。それとも通訳を通じて?

 もちろん通訳。

小針 進 静岡県立大学教授

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こはり・すすむ / Kohari Susumu

1963年生まれ。東京外国語大学朝鮮語学科卒業。韓国・西江大学校公共政策大学院修士課程修了。ソウル大学校行政大学院博士課程中退。政治学修士。特殊法人国際観光振興会(元・日本政府観光局)職員、外務省専門調査員(在韓日本大使館政治部勤務)などを経て現職。専門は現代韓国社会論。『文在寅政権期の韓国社会・政治と日韓関係』『日韓交流スクランブル-各界最前線インタビュー』『日韓関係の争点』(編共著)、『日中間の相互イメージとポピュラー文化』(同)など著書多数。

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