韓国大統領選で候補者の夫人が注目される理由 選挙戦からスキャンダルの暴露合戦がなぜ続く?

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2021年11月、与党「共に民主党」の大統領候補の李在明候補と夫人の金恵京氏が地方の市場を訪れている。この後、金氏のスキャンダルが発覚し、選挙運動に出られなくなった(写真・EPA=時事)

韓国の大統領選は2022年3月9日投票に向け終盤の混戦が続き、勝敗の行方を左右する“変数”として“夫人リスク”が関心を集めている。支持率伯仲の与党・李在明(イ・ジェミョン)候補と野党・尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補が、いずれも夫人のスキャンダル疑惑に悩まされているからだ。双方、政策論争はそっちのけで相手候補の夫人に対するバッシングに血眼だ。

大きな存在感を持つ大統領夫人

背景には、韓国の大統領夫人がアメリカ並みにファーストレディーとして注目され、かつ舞台裏で夫への影響力がきわめて強いという現実がある。韓国には儒教的価値観から、妻は「内(家の中)の人」として男尊女卑的イメージがあるが、実態としては「内での力」は大きい。そこで今回の選挙戦では「こんな妻が大統領夫人になっては大変だ!」といってお互い足を引っ張り合っているのだ。

当初は李在明陣営が、検事総長出身の尹錫悦候補のイメージダウンを狙って、尹候補の妻・金健希氏(キム・ゴニ、49歳)叩きに熱を上げた。夫人の母、つまり尹候補の義母の不動産投機疑惑から始まり、さらに夫人の経歴詐称や株価操作疑惑に広がった。若くて美形なため、「昔ホステスをやっていた」とか「占いにはまっている」といった虚実ないまぜのネタを総動員して、ネガティブ・キャンペーンを展開してきた。

ところが、ここにきて李在明候補の妻・金恵景氏(キム・ヘギョン、55歳)に公私混同疑惑が持ち上がり、野党陣営から猛反撃を受けている。李候補はこれまでソウル近郊の城南市長と首都圏の京畿道知事を務めてきたが、金氏が市長夫人時代に市の職員を私的な家事にまでこき使い、かつ公金をショッピングや飲食に流用していたというのだ。中には、税金で「寿司10人分」を出前させたといった暴露話まで出ている。

これは当時の職員による内部告発だが、近年、公職者や“持てる者”のこうした「横暴」に対し、韓国世論の目はことのほか厳しい。革新系で人権弁護士出身の李候補にとってはイメージ失墜である。これまで夫人が姿を現さない尹候補を尻目に、これ見よがしに仲睦まじい夫婦同伴ぶりを誇示してきたが、こちらも選挙運動から夫人の姿が消えてしまった。

夫人をめぐる対抗馬への“疑惑追及”が、結局、李候補にもブーメランとなってはね返ってきたのだ。これで夫人リスクは形勢逆転となり、逆に与党陣営が防戦に回るはめになった。終盤の巻き返しを狙って尹候補夫人の新たな“疑惑発掘”に懸命である。

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