韓国大統領選で候補者の夫人が注目される理由 選挙戦からスキャンダルの暴露合戦がなぜ続く?

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ところが盧泰愚は「自分はいいが、野党出身の金泳三には妻が反対なので説得してほしい」と頼んだというのだ。そこで金潤煥氏は、盧氏の夫人・金玉淑(キム・オクスク)氏を説得し結局、金泳三が大統領候補になり、選挙でも金大中に勝った。しかし皮肉なことに、金泳三氏は大統領になると「過去清算」と称して軍人出身の全斗煥と盧泰愚の両氏を逮捕し、投獄してしまった。金玉淑夫人の“懸念”が的中したのだ。

全斗煥夫妻を含め、とくに軍人の家庭では“銃後の守り”として夫人の力が強い。盧泰愚夫妻の例は、大統領夫人の影響力の大きさを如実に物語るエピソードである。

興味深いのは、この金泳三氏の妻である孫命順(ソン・ミョンスン)夫人が、歴代大統領夫人の中では最も存在感がなかったことだ。“内助の功”に徹し表に立つことはほとんどなかった。いつも大統領の背後で黙って微笑んでいるだけだった。その代わり、金泳三大統領に影響を与えたのは息子の金賢哲(キム・ヒョンチョル)で、彼は“小統領”と皮肉られるほど力を持ち、その結果、後に不正疑惑で逮捕されている。

大統領夫人担当部署の廃止論も

金大中大統領(同1998~2003年)の李姫鎬(イ・ヒホ)夫人も日本時代の女学校経歴があるが、後に梨花女子大卒の人権活動家として活動し、夫とは同志的な関係にあった。いわば二人三脚で影響力をもった。彼女は先の朴正煕夫妻の場合と同じく、後妻だった。そしてともに、前妻よりも経歴を含めはるかに見栄えがあった。しかし、金大中夫妻の場合も、金銭疑惑で息子が逮捕されている。

2021年6月、イギリスでのG7サミットに出席した文在寅大統領と金正淑夫人(写真・2021 Bloomberg Finance LP)

その意味では、李明博(イ・ミョンバク)大統領(同2008~13年)の金潤玉(キム・ユンオク)夫人も、梨花女子大時代に大学のミスコンテストで“メイ・クイーン”になっている。財閥「現代建設」の社長だった夫にふさわしい見栄えがあった。

では、現在の文在寅(ムン・ジェイン)大統領はどうか。金正淑(キム・ジョンスク)夫人は大統領とは同じ大学(私立の慶熙大学)の後輩で、声楽を専攻した声楽家である。彼女から文在寅にプロポーズしたという積極派で知られる。大統領夫人としても活発なイメージがある。押し出しがよくて外遊の際、公式行事の場面で大統領より前を歩いて話題になっている。とはいえ、夫への影響力の実態は不明だが。

今回、李在明候補の夫人・金恵景氏も韓国・淑明女子大でピアノを専攻した。夫は小学校卒で少年工を経験、検定試験で大学に合格して弁護士になった叩き上げだ。妻は大柄の美形で、すでに市長・知事夫人を経験しているので、早くもファーストレディ然としている。

選挙の結果、尹錫悦候補の金健希夫人とどちらかが青瓦台(大統領官邸)入りすることになるが、マスコミ論調をはじめ、世論には今回の夫人疑惑をめぐる泥試合を機に「もう華々しいファーストレディ扱いはやめてはどうか」という声が上がっている。青瓦台に昔から公式部署として存在する大統領夫人担当の「第2付属室」の廃止論も出ている。

黒田 勝弘 産経新聞ソウル駐在客員論説委員、神田外語大学客員教授

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くろだ かつひろ / Katsuhiro Kuroda

1941年生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長兼論説委員を経て現職。1978年韓国延世大学留学。ボーン・上田記念国際記者賞、菊池寛賞および日本記者クラブ賞を受賞。著書に『韓国 反日感情の正体』『隣国への足跡 』『韓国人の研究』『韓(から)めし政治学』『反日vs. 反韓 対立激化の深層』など多数。2021年4月から神田外語大学客員教授。

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