漫画「キングダム」に起業家が心奪われる納得理由 入山章栄・早大教授が経営学の視点から分析
――最新刊の64巻までには何度もストーリーの山場があります。
その山場の熱が極端に冷めることなく次に続いていく。作中でかなり盛り上がるのが、25巻からしばらく続く合従軍編。他国が連携して秦を攻めるストーリーですが、僕は読みながら、ここが『キングダム』のピークになるんじゃないかと思ったりもしました。
――一読者として、同感です。
ですよね、そう思うじゃないですか。でも、その後も勢いが落ちないし、さらに面白くなる。作者が山場の後も盛り下がらないよう意図して描いているからです。
自分を重ね合わせられるキャラクターが登場する
――緻密に作り込まれた世界に、起業家たちも引き込まれたと。ここ数年の起業家の傾向やスタートアップを取り巻く環境の影響もありますか。
なぜ今、『キングダム』が起業家に受けるかというと、起業家の世界が戦国時代の様相を呈しているからです。運の要素も強い、群雄割拠の時代です。『キングダム』のいいところは、ストーリーの面白さはもちろん、それぞれのキャラクターの個性が立っていて、自分を重ね合わせられる人がどこかには登場するという点です。
そのうえで、起業家が感情移入しやすいのはやはり主人公の信や、のちの始皇帝・嬴政のようです。
とくに信は5人1組で構成される軍の最小の単位である「伍」のメンバーの1人として武人としてのキャリアが始まる。そこからだんだん出世して、率いる人数が100人、1000人、3000人と増えていき、将軍にまで上りつめていく。経営者が会社を1人か2人で立ち上げて、大きくしていくのはこれと似た感覚です。
経営者にとってのゴールの1つがIPO(新規株式上場)だとすると、『キングダム』の世界では、将軍になることがそれなんです。そして、どのくらいの共感を得られるかわかりませんが、少年漫画を愛読する人間の好物の1つが「強さの数値化」なんですよ。
――漫画好きとして、よくわかります。
『ドラゴンボール』もそうですよね。スカウターで強さを数値化する。海賊漫画の『ワンピース』も、実はかけられた賞金額での数値化が行われている。主人公の強さの位置が、主人公自身にも読者にも共有されるわけです。『キングダム』ではそれを部下の数でやっているイメージ。
そして、数値が上がっていくと同時に信がリーダーとしていい感じに成長している。飛信隊という、主人公・信が率いる部隊のメンバーも魅力的です。途中で険悪になるシーンもありますが、当初からの仲間、いわば創業メンバーも信の部下として一緒に階級が上がっていったりする。そんなリアルさも起業家に響いているんじゃないでしょうか。
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