長距離ドライバー、「基本給7.5万円」の過酷な実態 過重労働を強いられるが、報酬は上がらない

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休憩時間といえども、業務から完全に解放されるわけではない。盗難などの被害を避けるため、荷物を積んだトラックからあまり離れられないからだ。休憩中はパーキングエリアなどにトラックを止め、車内で眠ることも多かったという。「頭の片隅に荷主の指定時間があるので、休憩中も気は休まらず熟睡できない」(Aさん)。

Aさんがつけた運行日誌を見ると、図表の業務があった月には関東─関西を9往復していた。労働時間は月間で約268時間にも上り、パーキングエリアなどでの休憩時間も含めると拘束時間は410時間を超えていた。「基本的に1カ月に400~500時間程度は拘束される」(同)。

厚生労働省は、過労死を引き起こしうる負荷要因として、①不規則な勤務、②拘束時間の長い勤務、③出張の多い業務、④交替制・深夜勤務、の4つを示している。これらの項目は、いずれもAさんの勤務実態に該当する。

実際、不規則かつ深夜の長時間労働がたたり、Aさんは現在も糖尿病を患っている。「これ以上は肉体的に限界だと感じ、長距離ドライバーを辞めた」(Aさん)。

定額で長時間の過重労働

こうした過重労働で得られるのが32.1万円の月給だった。Aさんは「寿命を犠牲にしていたが、割に合わない仕事だった。月給は30万円程度でほぼ横ばい。どれだけ働いても給与水準は上がらなかった」と嘆息する。

中でも注目すべきは基本給だ。さまざまな手当が加算されることで給与は底上げされているが、基本給はわずか7万5000円。賞与も抑えられており、Aさんの年間賞与は15万円となった。これは決して特殊な事例ではない。大手物流企業の幹部は「基本給が7万~8万円程度というのは業界内では珍しくない」と認める。

個人でも加入できる労働組合のプレカリアートユニオンの清水直子委員長は「残業時間に見合った給与は支払われておらず、運送会社によるドライバーの定額働かせ放題が横行している」と語る。こうしたドライバーの劣悪な労働環境を是正すべく厚労省は、残業時間を規制するなど働き方改革を推進しようと動き出している。

だが、業界関係者は「残業規制だけでは不十分」と口をそろえる。その真意はどこにあるのか。本特集ではトラックドライバーが置かれた瀬戸際の現状を取材し、物流業界にいま何が必要なのかを探った。

佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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