アイデアが「ウケる人」「スベる人」の決定的な差 「説得型発想」から「納得型発想」への脱却が重要

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では、この「納得型発想」を生み出すにはどうすればいいでしょうか?

それは、「徹底的に相手を知り尽くすこと」です。

今回、相手が望んでいることは何か? 相手が目指している未来像は? 相手の傾向は? 相手の好みは?

こうした相手にまつわる情報が、まるで自分のことのようにわかる状態にならなければ、相手を納得させるアイデアは生まれて来ません。

つまり、採用されるアイデアを生む第一歩は、「相手になり切ること」です。私はこれを「ナリキリ」と呼んでいます。

単に「相手の立場で考える」といった程度の意識転換ではなく、完全に相手と一体化するという意味です。

ナリキリ=「相手になりきること」から始める

徹底的に相手になりきる「ナリキリ」の好例は、やはりウクライナのゼレンスキー大統領でしょう。彼の各国での演説は見事でした(参考記事:ゼレンスキーとジョブズ、2人の意外な共通点)。

アメリカではアメリカ国民になりきり、記憶に刷り込まれた真珠湾や9・11を取り上げました。イギリスではイギリス国民になりきり、シェークスピアやチャーチル元首相の有名な一説を引用しました。ドイツではドイツ国民になりきり、東西冷戦の象徴であったベルリンの壁を例えに「壁」を連呼しました。

こうして、ゼレンスキー大統領は国際的な援助を獲得することに成功したのです。彼の「ナリキリ」から生まれたアイデアの勝利です(残念ながら、日本の国会での演説では、津波や原発事故を取り上げましたが、ナリキリが十分ではなかったようです)。

もちろん、アイデアを考案するのには十分な時間が必要です。しかしそれ以上に重要なのは、まず「ナリキリ」に十分な時間を割くことなのです。

まず、相手に関する資料を徹底的に収集し、相手になりきって、考えや望みを体得する。アイデアの発想に入るのはそのあとです。

ついつい発想に気を取られて、方向が定まらないまま「見切り発車」してはいけません。その先に待ってるのはあなたの望む駅であっても、相手が求める駅ではありません。

すべての発想のスタートを自分ではなく相手から始めること、これが肝心です。残念ながら、多くの人が「ナリキリ」を軽んじています。時間をかけません。

そんな状態からスタートして、相手が喜ぶアイデアを提案できるでしょうか?

実際、アイデアを採用するかしないかの判定は相手の手に委ねられているのです。相手にこそ決定権があるのです。そして、その結果がすべてなのです。

加えて、「ナリキリ」は、アイデアに詰まったときの最高のヒントを与えてくれる方法でもあります。

自分を中心にしてアイデアを考えることには限界があります。いくら時間をかけても、「何も閃かない」と油汗を流すこともあるでしょう。そんなときは、迷わず「ナリキリ」を試してください。

相手になりきることで、相手が望むことが見えてきます。それこそ、発想の転換であり、ストライクのアイデアを生む最高のヒントになります。

私は、現在も企画コンペで勝率88%を誇っています。周囲からは「バカ勝ち!」と呼ばれています。しかしそれでも年に1〜2回は負けてしまいます。

そんなとき、私は負けた理由を相手のせいにすることはありません。敗因は、すべて私のアイデアにあるのです。

つまり、提案したアイデアは、「アイデア」ではなく「思いつき」にすぎなかったのです。相手の本当に望むものがわかっていなかったのです。足りなかったのは、「発想」ではなく「ナリキリ」だったのです。

あなたも、アイデアが必要なときに、「ナリキリ」から始めてください。「ナリキリ」に徹底的に時間をかけてください。そうすれば、必ずあなたのアイデアは採用されるようになります。

杉森 秀則 勝率88%の常勝プランナー

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すぎもり ひでのり / Hidenori Sugimomri

早稲田大学商学部卒業後、NHKにディレクターとして入社。30歳の誕生日に依願退職、フリーのCMディレクターとなる。

2002年、株式会社映像制作センターを立ち上げる。しかし企画コンペに繰り返し応募するも勝てず、一時は廃業も考えるように。「最後のチャンス」として挑んだコンペで従来のやり方を一新、本書のもととなる「アイデアの見つけ方」を開発して逆転勝利。以降、コンペの勝率は劇的に跳ね上がり、国連、防衛省、資生堂など官公庁や大手企業の映像を企画・演出。

現在でも年間15回以上のコンペに参加、負けるのは1〜2回だけ。電通トップクリエーターや有名建築家でさえ勝率30%台と言われる中で、驚異の「勝率88%以上」を誇る。

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