海外で予想以上「EVシフト」日本は本当に大丈夫? 今年中には世界で販売される車の1割がEVに

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トヨタをはじめ日本メーカーは、これまで(PHEVも含め)ハイブリッド車で世界市場を席巻してきた。そこからすぐに電気自動車に移行するよりは、ハイブリッド車の時代をできる限り後ろまで引き延ばし、この分野への巨額投資を十分以上に回収したいというのが本音だった(実際、ハイブリッド車の市場は2027年ごろまでは引き続き成長すると見られている)。

逆に欧米メーカーや中国勢はハイブリッド技術の開発競争で日本勢に敗れたので、この技術に未練がない。むしろ世界的なグリーン経済化の潮流に乗って、なるべく早いうちからEVシフトを図ることのほうが中長期的には得策と考え、政府もそれを支援したのである。

とくに、ドイツのフォルクスワーゲン(VW Group)のスタンスは日本メーカーと対照的だ。同社はかなり以前から5年計画で5兆円以上を投じて、「ID(Intelligent Design)シリーズ」と呼ばれるBEVの開発・商品化を進めてきた。しかし当初は車載ソフトの不具合等から、「IDシリーズ」の売れ行きは伸びなかった。

そこでフォルクスワーゲンは、それまでのハードからソフト中心の開発体制へと移行するなど根本的な組織改革を図った。これにより2020年9月に発売された「ID.4」は2021年の「World Car of the Year」に選ばれるなど高い評価を受け、売れ行きも好調。世界のEV市場で首位を走るアメリカのテスラに十分対抗できるまでに成長した。

「EVはエコカーとは言えない」と主張し続けてきたが…

これら欧米メーカーにとって、EVシフトには「脱炭素化や環境に優しいグリーンエネルギーへの転換」という大義名分がある。これに対しトヨタなど日本メーカーは、長年「EVは決してエコカーとは言えない」と主張し続けてきた。

アメリカや中国、日本では、EVに供給される電力の少なくとも6割以上が火力発電で賄われる。いくらクルマを電動化したところで、それに電力を供給する発電施設などが化石燃料に依存し続ける限り、EVシフトは一種の偽善に過ぎない。また、電動化によって奪われる自動車業界の雇用にも配慮しなければならない、というのである。

また「車載電池に使われるリチウムやコバルトなど資源の過剰採掘が、新たな環境破壊や採掘労働者の健康被害を引き起こす」との指摘もある。

確かにEVには、そうした暗い側面が潜んでいる。しかしクルマの電動化へと向かう世界の潮流にはもはや、あらがい難い。かつて1980年代まで世界市場を席捲した日本の総合電機メーカーは、その後のインターネット・ブームに乗り遅れて存在感を失っていった。今、日本の自動車メーカーがその轍を踏まないためには、予想以上に早く訪れた世界的EVシフトへの迅速な対応が求められている。

小林 雅一 KDDI総合研究所リサーチフェロー

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こばやし まさかず / Masakazu Kobayashi

1963年、群馬県生まれ。作家・ジャーナリスト、KDDI総合研究所リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学系研究科を修了後、東芝、日経BPなどを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。帰国後、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などを経て、現職。近著に「生成AI」(ダイヤモンド社)、「AIと共に働く」(ワニブックスPLUS新書)。

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