日テレ「悪女」麻理鈴は30年前の同作と何が違うか 打倒すべき偏見は性別より人を上下に隔てる価値観

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

平成版は1972年に施行された男女雇用機会均等法が1985年に改正されてから7年が経過し、女性が男性と肩を並べて働く意識が高まっていた時代のはず……。ところが、平成版の舞台になっている一流商社・近江物産では、まだまだ男女差別が激しく、女性はなかなか認めてもらえていない。女性はみんなコネ入社で、自宅通勤が前提、長く勤務しようという気はさらさらなく、優秀な男性社員と結婚して退職することを考えているような、いわゆる“腰掛け”なのである。

平成版は従来の女の幸せの頂点をRPG(ロール・プレイング・ゲーム)のように目指していく物語だった。石田ひかり演じる麻理鈴は颯爽と自転車通勤するも入社式に遅刻したり喫煙したりとマイペースながら、偶然出会ったT.O(田村収)という社員に一目ぼれして、彼にふさわしい人物になるために出世を目指す。

田中はタバコをすぱすぱ吸って、家では晩酌し、会社では上司のタバコに火をつけたりもする。今見ると、この主人公は男社会になじんでしまっている。「過労死するまで働きます」なんてセリフもあって、令和の価値観からはかなり距離がある。この時代、女性が男性と肩を並べるためには「おじさん」化しないとならなかったことを如実に物語っているようなドラマだったのだ。

令和版「悪女」で石田ひかり演じる夏目の役どころは?

平成版のヒロインを演じた石田ひかりは令和版の第2回、人事部のベテラン社員・夏目役で登場した。彼女はかつて峰岸とは仕事のライバル関係にあり敗北した過去を持っているため峰岸をよく思っていない。石田が演じることで夏目は平成版「悪女」の田中麻理鈴がそのまま働き続けた姿のようにも見える。

過労死するほど働いて、でもつねに身支度をきれいに整えて、男性社員に気を使いけっして出しゃばらず、酒の席では花を添える役割に徹する。そうやって男性以上にがんばっても結局、年下の男性社員に出世の先を越され、悔しい気持ちを抑えて会社に居続けるしかないのだ。

一度は結婚したが離婚し、いまは仕事一筋。最近の若い世代のガツガツしない生き方が物足りず、つい厳しく接して影では面倒くさいと思われている。女性がなかなか認められないから、ひとり生き残るだけで精いっぱい、ほかの女性をついライバル視していく夏目のやり方を男性社員は「女王蜂症候群」と呼ぶ。だが、今や、シスターフッドが尊ばれる令和である。

次ページ令和版「悪女」は平成版「悪女」の焼き直しではない
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事