「FRBの利上げ0.5%」でぬか喜びをしてはいけない 前回の「量的引き締め」から学ぶところはあるか

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とはいえ、非常時の緩和策はどこかで打ち止めにしなければならない。いわゆる「出口政策」というやつだ。2013年5月にバーナンキ議長が、議会証言で「そろそろ資産購入額を減らしますよ」と発言し、それを「テーパリング」という名で呼んだところ、それだけで世界同時株安を招いてしまった。これに懲りて、FRBは時間をかけて金融政策の正常化を準備することになる。

まずはバーナンキ議長が間もなく退任するという2014年1月になって、いよいよテーパリングを開始した。翌月にはジャネット・イエレン議長が就任する。資産の購入量を少しずつ減らしていって、2014年10月にはテーパリングが終了する。とはいえ、FRBの総資産は4.4兆ドルに達していた。そして満期になった債券は新たに買い替えられ、バランスシートはそのままの規模で放置されたのであった。

次なる金融正常化の手段として、利上げが行われたのは2015年の12月からであった。このときの利上げは0.25%で、しかも2度目は2016年12月まで待つ、というゆっくりとしたペースであった。当時のアメリカ経済は今のようなインフレとは無縁であり、むしろ日本型のデフレを警戒していた。だからこそ、出口政策には慎重だったのである。

「エンジンブレーキ」をかけたFRB  

FRBがQTに着手したのは、2017年10月からであった。この年の1月にはドナルド・トランプ大統領が誕生している。そしてトランプ政権は好況下の大減税に打って出て、法人税率を35%から21%に引き下げた。おそらくイエレン議長はこんなふうに考えたのだろう。

「トランプ減税は景気の過熱を招くかもしれない。だったら今こそQTを始める好機」

つまりアメリカ経済にエンジンブレーキを利かせるように、FRBはバランスシート調整を開始したのである。

もっともトランプ大統領は、そんな動きが気に入らなかったと見えて、イエレン議長をわずか1期4年で「御用済み」にしてしまう。そして翌2018年2月に誕生したのが今のパウエル議長であった。

QTの具体策としてFRBが選んだのは、「満期となった資産の再投資を行わない」という時間のかかる手法であった。それでも2019年7月までには約6000億ドル分の資産が減っている。全体の15%ほどに過ぎなかったが、この間に長期金利は上昇し、NY株価はたびたび調整している。特に2018年末の「クリスマス暴落」は、原因不明で不気味な印象を与えたものだ。
FRBは2019年3月からQTの速度を遅らせ、ついで7月には利下げに転じるとともにQTを停止した。1度目のQTは、こんな風にはっきりしない形で終わっている。

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