自傷行為を繰り返す13歳少女を「追い込んだ」もの アメリカで広がる10代のメンタルヘルス危機
「この子は典型的な患者」と、ハーバード大学の児童・思春期心理学者エミリー・プルハーは言った。プルハーによれば、Mは「内在化障害」にあたるという。
現在14歳のMは、背が高く、髪の毛は赤く、青い目をしている。妹と、片方の親が違う兄がいる。シャイなときもあったり、ざっくばらんに話をしたりするときもあったりするMは、代名詞にこだわりがあり、現在は性別に縛られない「they」を好んで使っている。
7年生(日本の中学1年に相当)の初めには、日本の人気アニメキャラクターの名前で呼ばれることを希望した。そのキャラクターのファーストネームのイニシャルはM。「私たちは似ていると思うんです。彼女は物静かで頭が良くて、エレキベースを弾く。私もベースとギターが好きだし」とMは言った。
Mが4歳のとき、就学にどれだけ適した状況になっているか、一家はある心理学者に評価してもらったことがある。Mの「知的能力は極めて優れた範囲にある」という結論だった。
スマホを手に入れ、思春期を迎えた
10歳のとき、Mはスマホを手に入れた。リンダと夫のトニーは仕事が忙しく、Mがスマホ漬けになることに不安を覚えつつも、連絡を取り合うには必要だと考えた。11歳のとき、Mは成長の節目をもう1つ迎えた。思春期だ。
女子の思春期の始まりは1990年の14歳から現在の12歳へと大きく低下し、男子も同様の経過をたどっている。専門家によると、この変化は青少年のメンタルヘルス危機に関係している可能性が大きいが、それでも数ある未解明の要因の1つにすぎない。
Mに初めて問題の兆しが表れたのは6年生のときだった。授業に集中できないという問題だった。リンダとトニーは教師からMにADHD(注意欠陥・多動性障害)の検査を受けさせてはどうかと勧められたが、躊躇した。
CDCによると、アメリカでADHDと診断された患者の数は2003~2016年で39%増加。2人とも生物医学領域の科学者だったリンダとトニーは、ADHDの専門家に相談すれば確定診断に近づいてしまうのではないかという懸念を抱いていた。