電力危機に陥る日本「原発再稼働」の議論が必要だ このままでは今年冬に大規模な停電のリスク

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原子力規制委員会は発足してから世界でも類を見ない厳しい規制を導入してきた。2022年4月現在、原子力規制委員会の認可を受けて国内で稼働した原発は、九州電力の川内原発1号機、2号機、玄海原発3号機、4号機、四国電力の伊方原発3号機、関西電力の高浜原発3号機、4号機、大飯原発3号機、4号機、美浜原発3号機の合計10基である。

玄海原発3号機、美浜原発3号機など一部の原発は、原子力規制員会の認可を受けたにもかかわらず工事のために長期間停止しており、現在稼働している原発は5基にとどまっている。地震、津波などに対する厳しい安全基準をクリアーした、それらの原発が止まっている理由は何か。

9.11のような意図的な航空機衝突などのテロ行為に対応するための『特定重大事故等対処施設(以下、特重)』が設置されていないためだ。

特重とは航空機の衝突によって制御室が破壊された場合のバックアップ施設を指す。原発のコントロールタワーである中央制御室をもう一つ作るのと同様の工程が必要となり、原子炉1基あたり1000億円を大きく超えるコストがかかる。施設の性格上、各原発の特重の場所は公開されていないが、航空機の衝突によって原発の中央制御室が破壊された時を想定して原発敷地の地下や山側に建設されている。工事に時間がかかるのは施設の性格上やむを得ない。

新たな原子力規制を導入した際に最も議論になったのが、既存の原子力施設についても適合を義務付ける『バックフィット』だった。規制の遡及適用は法の一般原則では認められていないが、政府内外で議論を重ね原発事故の巨大なリスクを考え導入することになった。

原発の安全は「セーフティ、セキュリティ、セーフガード」の3Sで成り立っている。日本の場合は核不拡散を意味するセーフガードにおいては世界の優等生と言われてきた。最優先は津波をはじめとした自然災害に対するセーフティだった。同時にテロ対策などセキュリティについても議論を重ねたが、数多くの課題があり時間をかけて対応するしかなかった。

いったん再稼働した5基の原発が停止

そうした経緯の中で、地震や津波については新たな基準のバックフィットが義務付けられたが、設置に膨大な時間とコストのかかる特重については当初は5年間の猶予が与えられることになった。結果として特重が設置されることなく10基の原発が再稼働することとなった。その後、新規制基準への適合性審査が長期化したために猶予期間内に特重が設置できなかった原発については、2019年以降、特重の設置義務のバックフィットが適用され、再稼働できない事態に陥っている。

問題は特重と原発の安全性の関連性だ。2022年4月5日、衆議院本会議で特重の設置期限について聞かれた更田豊志原子力規制委員長は「特定重大事故等対処施設がないことが直ちに危険に結びつくとは考えておりません」と答弁している。

意図的な飛行機による原発攻撃の可能性がゼロだとは言わないが、その場合も原子炉の健全性に決定的なダメージがあるとは限らない。地震や津波と比較しても、対応の優先順位が異なることは自明だろう。だからこそ、3.11の後も2019年までは特重の設置されていない原発の再稼働を原子力規制委員会は認めてきたのだ。

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