仏紙襲撃事件は、強烈な普遍主義同士の衝突 鹿島茂氏が読み解く仏紙襲撃事件(前編)
フランスで、「一にして不可分」の原理に違反すると大変なことになる。差異性を強調することは認めない。特別扱いは認めない。これが「ライック」に関わる。パブリックな場に宗教を持ち込まないので、カトリック政党やイスラム政党を認めない。「カトリック的教育」「イスラム的教育」もない。したがって、学校にイスラムのスカーフをしてくるな、ということになる。
双方とも強烈な普遍主義だからぶつかる
――追悼デモ行進に参加した人たちから、「自由・平等・友愛」「共和国の理念」などの言葉がさかんに飛び出したのはそういう理由からですね。
そう。「フラテルニテ(Fraternite)」は、この場合「兄弟愛」と訳すのが正確です。「同胞愛」ですね。兄弟は平等、それが拡張されていき、フランス国民は全員兄弟になる。フランスで生まれれば全員フランス人になれる。この普遍的な原則に違反したらいけない。逆に、宗教そのものは攻撃してもかまわない。
もう一つの重要なことは、テロ事件を起こしたのはアルジェリア移民の子でイスラムの兄弟であり、イスラムもまた、強烈な普遍主義であるということ。イスラムにはバチカンがないでしょう。ヒエラルキー(階層)がない。イスラムは全員が平等。日本人がイスラム教徒になっても平等に扱われる。大変な普遍主義だ。そしてアッラーの神と預言者マホメットこそが統合の象徴である。
「普遍主義」と「普遍主義」が衝突する。アルジェリア戦争が血で血を洗うような凄絶なものになったのは、どちらも普遍主義で兄弟愛が強い同士の争いだから。マフィアの抗争のように過激になる。
なぜ、2つが合わないかというと、婚姻制度に大きな違いがある。フランスは外婚制度で、お嫁さんは、外から来る。イスラムでは内婚制度といって、いとこ同士の結婚が奨励される。世俗化してその比率は下がってきているけど、比率が50%を超える国もある。だから、イスラムは女性を外に出さず、女性の権利はほぼゼロに等しい。その代わり、女性はもの凄く保護される。イスラムが家庭内にこもって女性を外に出さないことを、フランス人はおかしいと考え、「女性に権利がない」と批判する。
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