仏紙襲撃事件は、強烈な普遍主義同士の衝突 鹿島茂氏が読み解く仏紙襲撃事件(前編)

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

移民の場合は、トッドの言う「受け入れ国全能の原則」で、元がどういう家族類型の民族であっても、受け入れ国の制度に融合せざるを得ない。その結果、内婚制度の共同体家族であるイスラムがフランスに入ってくると、家族が解体して個人にならない限りは、フランス人にはなれない。 

家族が解体を迫られてアイデンティティの危機に

だから、フランスにいるアルジェリア人の問題と、ドイツにいるトルコ人の問題はまったく異なる。ドイツ人は血統主義なので、トルコ人は永遠にドイツ人にはなれない。しかし、トルコ流にやっていてもかまわない。フランスは、フランス人になることを認める代わりに、殻の中に閉じられたようなイスラムの家族は解体されなければならないし、宗教は前面にだしてはいけない。どちらがよいかは一概に言えない。

移民も3代目になれば完全にフランス人になれる。マグレブ出身の3世、4世などは相当融合が進んでいる。フランスは融合婚がかなり進んでいるし。デモ行進に参加していたイスラムの人たちもいたでしょう。

しかし、家族が解体されると普通は、危機的状況になる。アイデンティティクライシスに陥る。アイデンティティクライシスに陥った若者は母親に依存しがちになる。男の子の場合、これはよいこととはいえない。僕は「母系に歪む」というんだけれども、そうなると、父親を外に求めてしまう。そもそも、イスラムの家では母親の存在が大きく、父親の存在感は薄い。これは内婚制だから。家族が殻につつまれていたのに、殻がこわれてしまうと、幻想の父親を外に求めてしまう。

――それがイスラム国やテロリストの元に走る原因になると?

そういうことです。だから、どんどんそういう若者が増えてしまう。今回、事件を起こした兄弟は、孤児院で育っているが、フランスの普遍主義は移民全員に殻を壊すことを要求するから、危機的状況に陥っている移民の若者は多い。以前から、問題は起きていた。植民地保有のツケですね。

(後編は「『反イスラム』が高まれば法規制の議論も」

大崎 明子 東洋経済 編集委員

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事