仏紙襲撃事件は、強烈な普遍主義同士の衝突 鹿島茂氏が読み解く仏紙襲撃事件(前編)
家族類型が国家のイデオロギーに反映される
フランスの社会学者エマニュエル・トッドの説明では国家統一の基には家族類型がある。これは、親子関係と兄弟関係を軸にして4つに分けることができる。親子関係は、同居するのか、子が独立して核家族になるのかで分かれる。兄弟関係は兄弟が平等か、不平等かという遺産相続の仕方で分かれる。
まず、第1に親が権威主義的で子と同居、兄弟は不平等で単独相続の「直系家族」があり、日本、ドイツ、スウェーデン、韓国、それにユダヤ民族がこれに当たる。第2に正反対に親子は独立し自由で、兄弟は平等の「平等主義核家族」。フランスの中心部やスペイン、南米はこれに該当する。第3に、親子関係は独立して自由で、相続は不平等の「絶対主義核家族」が英国、米国、カナダなど。第4に、親は権威主義的で親子は同居、兄弟は平等という「外婚制共同体家族」が、ロシア、中国など。これが、それぞれ、国家のイデオロギーに反映されていると言うんですね。フランスはこの4類型の全部を含んでいるが、中央は普遍主義の平等主義家族、周辺は差異主義の直系家族と理解しておくとよい。中央の普遍主義が主流になったんです。
4つの類型のうち、「直系家族」は「自分たちとそれ以外」と考える。思考パターンはそれしかない。これを拡大していくと、「日本人とそれ以外」と考え、「日本人と外国人は違う」と、なる。ドイツ人や韓国人もそのように考える。「直系家族」のグループ同士はぶつかりやすい。ドイツ人とユダヤ人、日本人と韓国人がそう。
これに対して、「平等主義」のフランス人の考え方は、人間はホモサピエンスであるから、同一であると考える。そのことに比べると、「人種」「言語」「宗教」などは微細な違いでどうでもよいことでしかない。「男女」の差異すらも大きいことではない。これは例えば、フランスのフェミニズムと米国のフェミニズムの違いに現れている。フランスのフェミニズムは「女性という性」をまったく強調せずに、ただ、同権を要求するだけだ。こうした考え方が「一にして不可分」ということであり、フランス人になってしまえば、皆同じということ。
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