台湾の天才IT相「スマホ画面を指で操作しない」訳 人を簡単に支配するテクノロジーが存在する

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タン:オンライン教育による効率化で教師の数を減らせるという話が、人々の納得を得るのは、難しいと思いますね。代わりというと、教師たちはまず、自分の仕事がなくなると考えてしまうでしょうし。

唐鳳(Audrey Tang)/1981年生まれ。幼少時から独学でプログラミングを学習。14歳で中学校を自主退学、起業などを経て、35歳のときに史上最年少で行政院(内閣)に入閣、デジタル政務委員(閣僚)に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担う(写真提供:NHK出版)

そもそも教師の仕事は、ただ生徒に教科書を読んだり、宿題の採点をしたりするだけではないですよね? 大半は生徒を気遣ったり、才能を見出したり、一緒に学んだりすること、つまり人対人の仕事です。これは自動化できるものではありません。

台湾の私たちが考えるのは「支援型テクノロジー」で、人と人とのコミュニケーションの尊厳と効果を高めるものです。

例えば、私のこの眼鏡も支援型のテクノロジーの1つです。眼鏡がなければ、今私は、ミカ(堤)の顔をはっきりと見ることができません。でもだからといって、眼鏡が私自身や私の目の代わりになった、とは言わないでしょう? それはナンセンスですよね?

技術とは透明性が高く、関心を満たし、説明がつくもの

タン:タブレットのようなデジタルツールは、この眼鏡のようなものなのです。必要ならかけるし、必要がなければかけません。

私にとって技術とは、透明性が高く、関心を満たし、それでいて説明のつくものでなければなりません。そしてこれこそが私たちが学級プロジェクトで独自のタブレットを設計したときに考えたことなのです。

私たちは一瞬たりとも、タブレットを教師の代わりにするなどということは、考えませんでしたよ。

堤:まったく同感です。これについて言語脳科学者の方と対談を去年したのですが、そのときも子どもたちのための結論は「あくまでも紙が主体で、デジタルは従」でした。

堤 未果(つつみ・みか)/国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒、同大学院国際関係論学科修士号。国連などを経て現職。中央公論新書大賞、エッセイストクラブ賞、日本ジャーナリスト会議賞など複数受賞。「ルポ貧困大国アメリカ」「日本が売られる」など多くの著書が海外で翻訳されている(写真提供:NHK出版)

もう1つ、アメリカや日本、アジアやヨーロッパの教師たちを取材した際にとても多かったのが、「スマホ脳」の問題です。

タブレットを渡した子どもたちが、SNSやネットフリックス、YouTubeばかり見るようになってしまった。生まれた時からSNS漬けの子たちにやめさせるのは難しい、それでも学校で自由を制限すべきだろうか悩んでしまう、と。

タン:その問題の解決法は、実はすごく簡単なんですよ。

まず大前提として、タブレットは授業で使うためのもの、という合意があるでしょう? これに沿って、クラスではあらかじめ情報が整理されたアプリだけを使うのです。

ただしこの方法は、フェイスブックやツイッターのようなSNSには使えません。フェイスブックやツイッターを授業中に使ってはいけないのは、生徒が授業にお酒を持ち込んで飲んではいけないのと同じで、「自由の制限」にはあたらないからです。それはむしろ、授業という共通の物事に皆で集中しなければならないときの、教室の中の「ルール」ですね。

台湾では、教室でタブレットを使うとみんなで決めたら、教師が強制する代わりに、まず皆で特定の授業で使うアプリの一覧を、整理してから使い始めます。

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