台湾の天才IT相「スマホ画面を指で操作しない」訳 人を簡単に支配するテクノロジーが存在する
タン::こういったキーボードかタッチペンで操作をする時は、どこを押すかを考えなければならないので、意図的な動きになるんです。これだとスワイプと違い、癖になりません。もし気の向くままにスワイプし始めたら、コントロールが利かなくなるでしょう?
実を言うと私は、今まで一度も、タッチペンやキーボードのないPDA(携帯情報端末)を使ったことがないんです。必ずタッチペンを使います。キーボードもタッチペンもないものを使うと、あっという間にやめられなくなってしまうので……。
堤:オードリー、あなたでも?
タン:そうですよ(笑)。
堤:あなたでもそうなら、私のような一般人が簡単にやめるなんて、難しくて当たり前ですね、少しほっとしました。
タッチペンの使用はマスクをつけて手洗いと同じ
タン:安心しましたか? よかった(笑)。私にとってタッチペンを使うのは、言ってみればマスクをつけて、手洗いするのと同じですよ。自分もほかの人と同じくらい、スマホ依存になりやすいとわかっているのでね。だから新型コロナウイルス対策と同じように、皆と一緒に予防接種を受け、手を洗い、マスクをつけよう……と、そんな感覚です。
堤:スマホ脳の恐ろしさを、今日また改めて実感しました。教育に関する話で、中学校を自主退学されたときのことを聞かせてください。当時の学校教育から、もうこれ以上学ぶことはないと思った、と。ご著書を読ませていただきました。
タン:ええ、そのとおりです。好きな研究に専念したかったので。
堤:そして大人になってから政府に入り、今度はその学校教育を変えるために、教育改革を始めた。
タン:そう、始めました。中学を辞めた自分の経験をもとに、「実験教育」というオルタナティブ教育改革に関わるようになったんです。
堤:当事者としての実体験があったからこそ、今のシステムに欠けているものが見えたんですね。そうやって自分の手で実行した教育改革を振り返ってみて、最も大きな成果は何でしたか?
タン:ありがとう、よく聞いてくれました。そうですね、2019年に施行された基本教育改革で関わった箇所が、自分としては一番貢献できたと思います。教育課程を再設計する際に、社会の皆さんに議論の中身を知ってもらえるようにしたんです。
教育課程検討委員会の会議で、まず私が参加した最初の数回は自分で文字起こしをして記録を取り、それ以降はプロの速記者を呼んで、すべての記録をとってもらうようにしました。これがきっかけで、新たなルールが生まれたんです。教育課程審査委員会の会議をやるときは、始める前に保護者代表を含む参加者全員から、記録をとることへの同意を得て、ライブキャストか、録画しない場合でも議事録だけはとるようになった。
ちなみにこの会議には、台湾史上初めて、生徒の代表にも参加してもらったんですよ。その結果、誰でも記録を見れば、会議で話し合われた内容をすべて読めるようになりました。