台湾に好例「GAFAに独占されぬネット空間」作る術 自由で安全に意見交換できる公共の場が必要だ

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堤:オードリーと話しているうちに、質の高い仕事をする世界中の調査ジャーナリストが、デジタル技術によってつながり合う未来の光景が浮かんできました。

今多くの人が、テレビも新聞も信用できないと言ってスマホに張りついていますが、優れた調査報道はデジタル民主主義になくてはならない宝物、何としても守らねばなりません。公益のために真実を届けるという使命感を持って、心から誠実な仕事をする、そんな素晴らしいジャーナリストが、本当に、各国に大勢いるんですよ。

タン:そうでしょう。ミカと話していても、そのことがよくわかります。確か「報道者」では、この小さなスペースにとどまらない仕事のやり方も見つけようとしていますよ。例えばポッドキャスト形式、これなら、長文の形をとりやすくなるでしょう?

堤:確かに、ポッドキャストなら長文OKですね。これからは発信側も工夫しなければなりません。

音声は映像と違って深く考えられる余地をくれるので、私はラジオが大好きなんです。取材したことを丁寧に伝えるために、今地方のラジオ番組や幾つかの地方紙で連載を続けています。それから高速のヘッドラインでなく、濃い情報にゆっくり触れて深く理解したい人も多いので、そういう人たちのために、会員制の動画番組もやっています。

タン:そうですか!どれもとてもいい発信方法ですね。

情報は「どこから」より「誰から」手に入れるか

堤:台湾は、ある意味「デジタル民主主義」の実験国家のような存在ですから、そこでソーシャルセクターや市民が支える調査報道が活気づいているというのは私たち皆にとって大いに朗報です。

『オードリー・タンが語るデジタル民主主義』(NHK出版新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

デジタル化する社会が優れたコンピテンシーを必要とするように、人々が上質なジャーナリズムを強く求める時代が必ず来るでしょう。スマホ空間が中心になる程に、結局のところ、情報はどこで手に入れるかでなく、誰から手に入れるか、になってゆきますから。

そのあたり台湾ではどうですか。そうやって花開いている市民ジャーナリズム、つまり市民セクターからの情報は、通常のテレビや政府からの情報よりも、人々に信頼されているのでしょうか。

タン:もちろんです。誰でも、自分自身が参加していたり、身近な人や友人、家族が参加していたりすれば、その情報を信用するでしょう? これが、シチズン・サイエンスやシビックテックの重要な約束事なのです。

もしそこにある情報が気に入らなければ、自分で参加して改善できる。こうした市民型システムに参加したがる人の多くが、自分の信念や考えを提案したり、自分のやり方で社会に貢献したりできるこの形態のメリットに、気づき始めています。

例えば台湾には、学校やベランダでPM2.5を測定している市民がたくさんいますが、こうした個人の問題意識が、大気汚染反対パレードへとつながり、実際に台湾の環境政策を変えることになりました。

また、浄水装置を使って水質や汚染物質を測定し、工場の汚染物質封じ込め対策が農地で機能しているかどうか分析している人もいます。その結果、新竹市で用水路の機能変更を求める住民投票が最近行われました。台湾では、今や参加型ジャーナリズムやシビックテックが、市民が日常的に何か不正や不具合に気づいた時、それを良い方向に正すための正当な手段の1つと考えられています。

堤:これもまた、すごくいいお話ですね。たとえどんな小さな変化でも、自分が動いて関わったことで社会が前よりよくなったら、その達成感と自己肯定感は何物にも代えがたい宝物になるでしょう。想像するだけで、私までワクワクしてきます。それを気軽にできる市民参加型のインフラを作るためにテクノロジーを使う、これも、〈デジタル民主主義〉の素晴らしい実例の1つですね。

(翻訳協力:前田真砂子/株式会社トランネット)

第3回に続く)

堤 未果 国際ジャーナリスト

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つつみ みか / Mika Tsutsumi

ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業、ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科卒業。国連、アムネスティインターナショナルNY支局員、米国野村証券を経て現職。日米を行き来しながら取材、講演、メディア出演を続ける。著書に「報道が教えてくれないアメリカ弱者革命」「ルポ・貧困大国アメリカ」(3部作)「沈みゆく大国アメリカ」(2部作)「政府はもう嘘をつけない」(2部作)「アメリカから〈自由〉が消える」「核大国ニッポン」など多数

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オードリー・タン 元台湾デジタル担当政務委員

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Audrey Tang

元台湾デジタル担当政務委員(閣僚)。台湾初のデジタル大臣、台湾の無任所大使である。1981年、台湾台北市生まれ。幼少時から独学でプログラミングを学習。14歳で中学校を自主退学、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。19歳のとき、シリコンバレーでソフトウエア会社を起業する。2005年、プログラミング言語Perl6開発への貢献で世界から注目を浴びる。トランスジェンダーであることを公表。2014年、米アップルでデジタル顧問に就任、Siriなどの人工知能プロジェクトに加わる。その後、ビジネスの世界から引退。蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣、デジタル政務委員に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担った。2019年、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』のグローバル思想家100人に選出。台湾の新型コロナウイルス対応では、マスク在庫管理システムを構築、感染拡大防止に大きく寄与した。

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