台湾に好例「GAFAに独占されぬネット空間」作る術 自由で安全に意見交換できる公共の場が必要だ
ところで、あなたのようなシビックハッカーは、公式記録や元の一次情報の取得が本当に速いですね。私は調査ジャーナリストなので、つねに元データである一次情報を探しますが、ものによっては結構時間がかかるんです。そんな中で、最近自分の仕事の原点を意識して思い出さなければならない瞬間が増えています。
あらゆる物事のスピードがどんどん速くなるこのデジタル時代に、オードリー(・タン氏)、あなたが考える「ジャーナリズムの役割」とは何でしょうか。
タン:ジャーナリズムは、偽情報の危機、すなわちインフォデミックに関して、パンデミックなどの疫学的状況における公衆衛生と同じ役割を果たしていると思います。ジャーナリズムの実務であるファクトチェック、視点の提供、偏った見方の調整といったことはすべて、手洗いやマスクの着用などと同じような役割を持つのではないでしょうか。
ジャーナリズムとは「精神衛生」
タン:ミカ(堤)のようなジャーナリストが実践していることを皆が日々の習慣にできたら、心のウイルス、つまり根も葉もないイデオロギーから生まれた陰謀論に感染することはないでしょう。つまりジャーナリズムとは、「精神衛生」なのです。
しかし、だからと言って、すべての人を偽情報から守るための門番をおこうとするのは、時代遅れの発想なんです。今は誰もがスマートフォンという自分専用のメディアがありますし、すべての人々の門に門番をおくなんて、現実的に不可能ですから。
堤:しかも昔と違って、今は誰もが情報の受け手だけでなく、発信する側でもある。
タン:そのとおり。今はどのシビックハッカーやシチズン・サイエンティストも、情報を発信する、スマートフォンという「武器」を持っています。YouTubeでライブストリーミングを始めて、彼ら自身が放送局になっている。そこには彼らを手伝う門番も、編集者も、ファクトチェッカーもいません。
堤:必要なのは厳格な門番ではなく、質の高いコンピテンシー(知識や技能を超えた、社会の発展や全ての人にとって重要な課題に対応する能力)ですね。
タン:ええ、まさに。私たちがここで望むべきことは、プラットフォームの選択肢をなくしたり、ライブストリーミング機能を持つ携帯電話を取り上げたりすることではない。そもそもロックダウンをしない台湾で、そんなことはできません。
でも、移動の自由を認める以上、手をしっかり洗うこと、ワクチン接種を受けること、マスクを着用することの重要性を、すべての人に確実に理解してほしい。つまり「ジャーナリズム」が、ライブストリーミング・アカウントを持つすべての人にとっての「常識」になる必要があるのです。それが、台湾がメディアリテラシーだけでなく、メディアコンピテンスを、基本教育の中で教えている理由なのです。
昨今、ミカのやっているようなジャーナリズムは、非常に重要な役割を果たしていると思います。願わくばすべての人に、ジャーナリズムの参加者になってほしい。そうすればすべてのシビックハッカーが、社会のために自分の力を有効に使えるようになるからです。