国境「引き間違え」で生まれた国の辿った歴史の妙 人が引く線であり移ろいやすく永遠不変ではない

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領土交渉の末、両者は川を国境にすることで合意します。しかし、境となる川が2本の支流に分かれていることに気づかず、それぞれが最も近い岸で国境線を引きました。これにより、それまで取るに足りない存在だった「コスパイア」という村が領主不明のまま取り残されることに。

コスパイアの人々は、税金からも教皇令からも自由だという自分たちの立場をすぐに理解し、独立共和国を宣言します。ところが、政府を選出する作業は後回しにし、国旗と紋章のデザインに注力。統治機関を持たないまま、国家としての歩みを始めます。しっかりとした国内ルールは結局定められず、誰もが短命に終わると思っていました。

無政府なのに「タバコ」で400年続く

行政の仕組みがなかったにもかかわらず、コスパイア共和国は長寿国家となります。その背景にあったのは「タバコ」です。

共和国誕生から100年後、ヨーロッパにタバコが到来します。カトリック教会はタバコを認めず、嗜好品のたぐいを一切禁止。タバコを生産する者は誰であっても破門にすると脅しました。すると、教皇の管轄外にあり、タバコを栽培するのに最適な気候だったコスパイアは、自分たちが独占的にタバコ栽培を行えることに気づきます。250年にわたる好景気の始まりです。

400年もの長きにわたって繁栄できたコスパイア共和国は、規制が緩いこともあって19世紀頃には犯罪者やはぐれ者たちの逃亡先になりました。その様子はまさに、タバコの煙で姿を眩ませる様そのもの。国内は繁栄の一途をたどります。

しかしその後、教皇レオ11世と近接するトスカーナ大公国のレオポルド2世は、ふたたび領土交渉に乗り出します。コスパイア人は状況を理解すると、タバコ栽培の特権と引き替えに併合を受け入れ、コスパイア共和国は世界地図から姿を消しました。

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