「ロシア兵の戦死」が反戦につながらない複雑 遺体袋で国民に伝わるウクライナ戦争の犠牲

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ウクライナで死亡したロシア兵の遺体(写真:Tyler Hicks/The New York Times)

ロシア海軍大尉イワン・コノノフは料理好きだった。弟によると、戦地で部隊のためにイタリア料理をつくり、シリアに駐留していたときには配給品と交換して香辛料を手に入れることもあった。

アレクサンドル・コノノフ(32)が兄と最後に対面したのは3月、ロシア南部の都市ロストフナドヌにある軍病院の死体安置所でのことだった。兄はウクライナの港湾都市マリウポリの製鉄所をめぐる銃撃戦で戦死した。34歳だった。死体安置所に向かって歩いていると、軍病院の倉庫の開いた扉から黒い遺体袋が何十も床に並んでいるのが見えたと、コノノフはこのときの様子を振り返った。

プーチン支持を強固にする国民も

コノノフは、兄の死がきっかけで、自宅から80キロメートルほどの場所で起きている戦争に関心を持つようになったと電話取材に語った。「誰も必要としていない」戦争で兄が死んだことを悟ったのだという。

「みんながすべてを知ったら、抗議が起こる」。運送業に携わるコノノフは、ロシア国民全般の意識についてこのように話した。「そうなるのが一番いいんだ。この戦争は止めなくちゃならない。戦争なんてないほうがいいに決まっている」。

大統領ウラジーミル・プーチンがウクライナ侵攻を開始してから1カ月半。ロシア国民の多くは、自国が負った損害の大きさや、ウクライナ北部から撤退する自国軍が引き起こした大虐殺と残虐行為について、今も何も知らずに過ごしている。だが、戦争の現実は戦死通知や遺体袋といった形で一般家庭の生活に徐々に入り込み、コノノフのように戦争に疑問を抱く人も出るようになってきた。

一方で、身内が戦死したという知らせに、ウクライナ打倒の決意、そして西側と対峙するプーチンに対する支持をいっそう強固にする国民もいる。

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