「ロシア兵の戦死」が反戦につながらない複雑 遺体袋で国民に伝わるウクライナ戦争の犠牲
「アメリカがウクライナのナチに武器を与えたりしなければ、われわれの若者が死ぬことはなかった」。電話取材にそう語ったアレクサンドル・チェルヌイフは、22歳の息子を戦争で失った。
息子のルカ・チェルヌイフは軍情報部の伍長だった。「アメリカに核爆弾をお見舞いしてやればいい、というのが私の意見だ。それで決着がつく。そうなれば、アメリカは他国のやることに干渉しなくなるだろう」。
この戦争の行方は、クレムリンを支持する国民の決意が個人的な痛みの増大によって揺らぐかどうかに左右される可能性がある。今回の侵攻は単なる「特別軍事作戦」にすぎず、徴集兵が戦場に送られることはないと主張してきたロシア政府は、これが1945年以来でヨーロッパ最大の地上戦となって、一般のロシア国民に広く犠牲を強いるものになるといった印象にならないように情報操作を続けている。
独立系世論調査会社レバダ・センターによる最近の調査では、ロシア国民の35%がウクライナでの出来事にほとんど、あるいはまったく注意を払っていないことが明らかになった。国営テレビがロシア兵の戦死に言及することは、めったにない。
「犯罪的国家主義政権との戦闘」で殉職
戦死者に関する当局の沈黙は、ソ連時代のアフガニスタン侵攻を思い起こさせる。ベラルーシの作家スベトラーナ・アレクシエービッチはアフガン紛争について後にこう書いている。「田舎のあばら家に戦死通知が届いたとか、亜鉛の棺がプレハブ作りのアパートに届いたといったうわさがあるだけだった」。
今回のウクライナ戦争で国民に届く戦死の情報は、自治体や大学の発表、兵士の妻や母のソーシャルメディアページでの告知など、断片的なものにとどまっている。そして、そうした情報の多くは、戦争について当局が公式に使っている言葉に覆われている。
ロシア西部のリャザン州の知事は最近、同地域の4人の男性が「犯罪的国家主義政権との戦闘で」死亡したと発表した。ボルガ川沿いの都市ウリヤノフスクでは、第106親衛空挺師団のウラジスラフ・ルコニン大尉の妻が、夫は「ロシアの平和な空」を守るために殉職したとソーシャルメディアに投稿した。