「ロシア兵の戦死」が反戦につながらない複雑 遺体袋で国民に伝わるウクライナ戦争の犠牲

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西部の都市クリンツイにある産業教育大学が4月上旬、卒業生のアレクセイ・プリゴダが死亡したことをソーシャルメディアページで公開したときの説明も、「『ウクライナ地方での特別作戦』に参加し、祖国への義務を果たして死亡」といったものになっていた。

同大学はその翌日、週末に開催される音楽フェスティバルには「平和のために! ロシアのために! 大統領のために!」とのタイトルが掲げられ、地元のロックグループ10組が出演すると発表した。

ロシア兵の戦死でも変わらない「世論」

1980年代、アフガンでの過酷な戦争は、ソ連体制に対する国民の幻滅を拡大させる結果をもたらした。同戦争末期に軍の虐待から若者を守るために結成された「兵士の母の委員会」は、国家の沈黙を突き破る新たな市民社会の形成に貢献した。

だが、アフガン紛争は10年にわたって続いた。モスクワの社会学者アナスタシア・ニコルスカヤは、ロシア兵の戦死を受けて国民がウクライナの戦争に反対し始めていることを示す証拠は見受けられないと話した。

ニコルスカヤによると、アフガン紛争時と違って、国民はロシアがウクライナで戦う理由について明確な説明を受けている。西側の侵略に直面するロシアの安全を守り、ナチズムに対抗するために戦っている、という説明だ(プーチンは戦争を正当化するため、ウクライナ政府がナチによって運営されているという虚偽の情報を流している)。ロシア国民は全体として、民間人が犠牲になっているという情報には関心を持たないようにしているという。

「私たちは、そのような情報から距離を置こうとしている」とニコルスカヤは言った。「あまりにもつらいニュースだし、私たちにはどうすることもできないからだ」

(執筆:Anton Troianovski記者、Ivan Nechepurenko記者、Valeriya Safronova記者)
(C)2022 The New York Times Company

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