ロシアも余裕なし、金融から見たプーチンの急所 混迷するウクライナ侵攻、今後はどうなる?

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戦乱に起因するロシアの外貨建て国債のデフォルトは、1918年の帝政ロシア時代にまでさかのぼる。ボルシェビキ政権によるデフォルト宣言だ。

当時、ロシアは第1次世界大戦に連合国の一員として参戦していた。この戦費の調達を国債発行と海外からの融資に頼っていた。戦争の拡大に伴い調達戦費は増大し続け、財政を圧迫した。

帝政ロシア時代からほぼ100年で、ロシア国債は再びデフォルトする可能性が高い。4月4日期限の外貨建てロシア国債の残高のうち、海外保有分は200億ドル程度と大きくないが、デフォルト認定された意味は大きい。

ムーディーズ・インベスターズ・サービスやS&Pグローバルは、部分的なデフォルトと見なす「SD(選択的デフォルト)に引き下げ、格付けの付与そのものを取り下げた。ロシアは事実上、国債発行を通じた外貨調達の道を閉ざされたに等しい。

頼みの綱は中国だが…

ただし、穴はある。中国という抜け道だ。中国の中央銀行である中国人民銀行とロシア中銀は1500億元(約2兆7400億円)規模の通貨スワップ協定を結んでおり、中国が金融面でロシアを支える可能性はある。

その際、「ロシアが産出する原油や天然ガス、保有する金は有効な担保になる」(市場関係者)とされる。中国はロシアのウクライナ侵攻に明確な批判を避けており、ロシアから安価な原油、天然ガスの購入を行っていると伝えられる。

中国はSWIFTに代わるCIPSと呼ばれる国際的な決済システムを有している。CIPSにはロシアやトルコなどアメリカが経済制裁の対象とした国々など、中国の一帯一路の参加国89カ国・地域の865行(2019年4月時点)が加盟している。

CIPSに加盟する銀行数で最大なのは日本であり、ロシアは2位、3位は台湾である。このため日本と台湾を除けば、CIPSの力不足は否めないが、SWIFTから締め出されたロシアはこのCIPSを通じて資金決済を担保できる可能性はある。

また、インドもロシアから武器の輸入の7割を頼っており、原油を安く購入している。ロシアの外貨獲得を手助けしている。

中国はロシアのウクライナ侵攻で漁夫の利を得るだろう。ロシアは将来、中国(人民元)経済圏に溶け込んでいかざるをえないかもしれない。依然、プーチン氏は高い支持率を維持しているが、ウクライナ侵攻の後遺症はいずれ国内経済に跳ね返ってくる。

森岡 英樹 経済ジャーナリスト

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もりおか ひでき / Hideki Morioka

1957年生まれ。早稲田大学卒業後、 経済記者となる。1997年、米コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年4月、ジャーナリストとして独立。一方で、公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。

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