ロシアも余裕なし、金融から見たプーチンの急所 混迷するウクライナ侵攻、今後はどうなる?

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ロシアは金産出国で、輸出国でもあるが、2018年にはロシア中銀の金購入量は国内産出量を上回り、世界の中央銀行による金地金購入の約4割をロシア中銀が占めた。制裁に強い体制を構築する狙いがあったと見られる。

実際、2022年1月の外貨と金の保有は過去最高の6300億ドル(約79兆円)。世界4番目の外貨準備額高に達している。これに伴い、ロシアがドル建てで保有する外貨の比率は5年前の40%から約16%へと比重が低下している。そして、約13%を人民元で保有している。金積み増しを周到に進めてきたプーチン氏。そのうえでのウクライナ侵攻は、練りに練った戦略とみることもできる。

しかし、その前提となるのは短期の戦争終結だ。長期化すればウクライナ侵攻は自国経済にブーメランのように跳ね返ってくる。プーチン氏の誤算は、ストックではなく、フローで資金封鎖に見舞われたことではないか。

アメリカと欧州は国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの複数の銀行を排除し、アメリカはロシア中銀の在米資産を凍結、ルーブル防衛に外貨準備が利用できないよう制裁措置した。外貨準備に係るIMFの引き出し権も封じられた。

仮想通貨も封じられ、タックスヘイブン(租税回避地)に置かれたプーチン氏やプーチン氏を支えるオリガルヒ(新興財閥)の海外資産も凍結の憂き目にあっている。一部にはオリガルヒは凍結逃れから中東ドバイに資産を移しているともいわれるが、効果は限定的だろう。

厳しい制裁を追加したアメリカ

さらにアメリカは4月6日、ロシア軍によるウクライナでの民間人虐殺の疑いを受け、厳しい追加制裁を科した。ロシア最大の銀行「ズベルバンク」や国内4位の民間金融機関の「アルファバンク」に対し、アメリカの国民、企業との取引を全面禁止した。この制裁措置によりロシアの銀行部門の3分の2以上との取引が禁止されることになる。

同時にアメリカ人によるロシアへの新規取引を大統領令で禁止するほか、プーチン氏やその娘2人などのアメリカ内の資産を凍結した。また、欧州は、4月5日、ロシア産石炭の禁輸制裁案を発表した。原油や天然ガス(LNG)の輸入禁止には加盟国間で温度差があり、全面禁止には至っていないが、ロシア経済は欧米から経済封鎖されつつあることは確かで、金融面では孤立を強いられている。

すでにロシア国債は事実上のデフォルト(債務不履行)状態にある。ロシア財務長は4月6日、4日に償還期限を迎えたドル建て国債21億ドル(約2625億円)について、自国通貨ルーブルで支払い手続きを行ったと発表した。アメリカ財務省が経済制裁としてロシア中銀の外貨準備からアメリカの金融機関を通じて支払うことを認めなかったためだ。

ドル建て国債を他国通貨で償還することは契約違反であり、この時点でテクニカル上はデフォルトに認定された。救済措置として30日以内で契約どおりドルで支払えばデフォルトは回避できるが、状況は厳しい。

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