原油は米備蓄放出で今後最高値更新の恐れがある 所詮は中間選挙乗り切りのための一時しのぎ
こうした状況下で、ロシアがウクライナへの侵攻を開始したからたまったものではない。欧米各国を中心とする制裁によって、ロシアの生産が大幅に減少するとの見方から世界需給が一段と逼迫するとの懸念が強まり、一時は投機的な買いを呼び込んだわけだ。
戦略備蓄を放出したからといって、需給逼迫の問題が根本的に解決されるわけではない。ただアメリカの放出量が半端ないほどに大きなものとなり、日欧などほかの国際エネルギー機関(IEA)の加盟国も放出に参加する意向を示していることから、少なくとも今後6カ月程度は価格抑制の効果も見られそうだ。
だが、その間に産油国の生産余力が大幅に増加する可能性は、ほとんどないと考えておいたほうがよい。また、ロシアに対する制裁措置も、仮にウクライナとの停戦が実現したとしても、すぐに解除されることはないと思われる。備蓄放出が終了した後に、需給が再び逼迫する可能性は極めて高い。それゆえ、そうした見方がある限りは、原油相場もこれ以上大きく値を崩すことにはならないだろう。
エネルギー安全保障上、今後は買い戻しの必要性も
しかも、とくに注意しなければならないのは、一連の備蓄放出終了後には、当然ながらアメリカの戦略備蓄の水準が大幅に下がっているということである。同国のエネルギー情報局(EIA)のデータによると、3月25日時点で5億6832万バレルの戦略備蓄があるが、今後、当初の方針通り、最大で1億8000万バレルの放出が行われるとすると、半年後にはこれが3億8000万バレル台にまで取り崩される計算になる。
実はIEAは加盟国に対し、その国の純輸入量の90日分の備蓄を確保しておくことを義務付けている。2021年度のアメリカの原油輸入は日量611万バレル、輸出は298万バレルだったから、純輸入量は1日当たりでは313万バレル、90日分では2億8170万バレルとなる。
机上の計算では、今後備蓄の放出がすべて行われ、在庫が3億8000万バレル台になったとしても、90日分の水準を1億バレルは上回る計算となる。だが、「純輸入量の90日分」というのはあくまで最低限の水準であり、これをわずか1億バレル上回るだけの備蓄量というのは、いかにも心許ない。
エネルギー安全保障上の観点から、これを問題視する動きは当然のように出てくるだろう。また、バイデン政権もそのことには十分配慮している。そのため、今回の備蓄放出計画には市場が落ち着きを取り戻した際に、早急に買い戻しを行うオプションも用意されている。
だが、半年後、こうした備蓄の買い戻しに伴う需要分も含めて、需給バランスが均衡するほどに生産が増加している可能性は低い。需給逼迫に対する懸念を背景に、原油相場の上昇圧力が再び強まる可能性は、極めて高そうだ。
こうしたことを考えると、バイデン政権の今回の決断は、結局のところ中間選挙を何とか乗り切るための、一時しのぎの政策に過ぎないと結論づけられる。年末にかけて暖房需要が再び増加する時期に、状況は再び悪化している恐れは強い。制裁が解除されロシアの生産が回復、同時にアメリカのシェールオイルも生産が大幅増加などといった奇跡的なことでも起きない限り、買い意欲も一気に強まってくることになりそうだ。WTI原油価格が年末にかけて、1バレル=147ドルの史上最高値を更新する展開になっている可能性は、むしろ高まったのではないか。
(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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