原油は米備蓄放出で今後最高値更新の恐れがある 所詮は中間選挙乗り切りのための一時しのぎ

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アメリカのバイデン大統領は原油の戦略備蓄取り崩しで価格を抑えにかかる。だが、中長期の需要を読むと「火に油」になる可能性も?(写真:ブルームバーグ)

アメリカが原油価格の沈静化に躍起になっている。ジョー・バイデン大統領は1日、原油高騰に伴う物価上昇を抑制する目的で、大規模な戦略備蓄原油(SPR)の放出を行うことを明らかにした。

戦略備蓄の放出は、あくまでも応急措置

今回の備蓄放出は、最大で日量100万バレルというペースで6カ月間行われ、合計の放出量が1億8000万バレルに上る。これはかつてない大規模なものであり、エネルギー価格の抑制に対するバイデン政権の強い意志の表れと受け止めることができそうだ。

実際、原油市場もこれを受けて大きく売りに押された。指標であるWTI原油の先物価格は、備蓄放出の観測記事が出る直前には1バレル=107ドル台で推移していたが、その後100ドルの大台を割り込むまでに値を崩した。果たして、今回の備蓄放出は、原油相場の高騰を抑える決め手となるのだろうか。

忘れてはならないことは、戦略備蓄の放出というのは、あくまでも応急措置であり、効果も一時的なものにしかならないということである。

ここまでの価格上昇は主に需給悪化にある。すなわち、2020年前半に世界の需要は新型コロナの感染拡大や都市封鎖で大きく落ち込んだものの、その後は急回復。結局、この需要増加のペースに生産国の増産が追いつけず在庫が大幅に取り崩されてきたことが背景にある。

2010年代に原油価格は低迷、さらに脱炭素の風潮が一気に強まったことによって一時石油業界への投資が低迷したこともあり、産油国の生産余力は急速に減少している。現時点でOPEC(石油輸出国機構)加盟国の中で、生産を即座に増やすことができるのは、サウジアラビアとUAE(アラブ首長国連邦)だけ、と言われているのが現状だ。

アメリカのシェールオイルは比較的短期間に生産を増やすことができるとされているが、こちらも新型コロナウイルスの大流行によるサプライチェーンの混乱などによって生産コストが一段と上昇、採算が十分に取れないとの理由から生産はそれほど大きくは増加していない。

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