戦禍で身寄りをなくした36歳彼女の目に映る「今」 サヘル・ローズさん、壊された心は修復できない

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――日本に暮らすロシア人の方たちも、誹謗中傷や差別を受けるのではないかと不安を抱えていると聞きます。

実際に、ロシア人の子どもたちがいじめに遭っているという話を聞くと、本当に心が痛みます。国の考えが国民の考えではないので、国家と国民を一緒にしてはいけないと強く思います。

「自分たちが選んだ政権なのだから、国民にも責任がある」と言う人もいますが、民主主義とはいえ、国民の声が届かない状況下で、その考えは無理があるように思います。安全地帯にいる私たちが、ロシアの方たちを攻撃したり、貶めたりするような発言をしたりしても、何も生まないし、むしろマイナスしか生みません。

戦争は、敵も味方もなく、双方の国民が犠牲者です。

外部にいる私たちにとって重要なのは、偏った知識や情報によって、怒りや蔑みなど負の感情をあらわにして、無意識に加担しないこと。そして、今目の前にある平和な暮らしが当たり前ではないことを再認識することではないでしょうか。

イラクに行って見てきたもの

――養母・フローラさんから、「イラクを敵と見てはいけない。大人になったらイラクに行きなさい」と常々言われてきたと、著書の『言葉の花束』に書かれていました。実際にイラクに行かれたそうですが、そのときのエピソードについて聞かせてください。

はい。イラクでの滞在で最も心に残っているのは、ドホークという地域で暮らす、ヤジディ教の女性たちに会いに行ったときでした。

イラク北部の少数民族であるヤジティ教徒は、過激派組織のイスラム国(ISIS)によって侵略され、集団虐殺が行われたり、多くの女性や少女が捕えられ、人身売買や性的な奴隷として扱われたりと、非常に残忍な目に遭ってきました。

ドホークの施設には、攻撃によって息子さんを目の前で射殺された方や、性的な暴行を受けながらも命からがら逃れてきた方、娘さんが連れ去られたまま、いつ帰ってくるかわからない方……など、苦しみと絶望にさいなまれる人たちが大勢いました。

「母の『イラクを敵と見てはいけない』の言葉から、隣国を違った角度から見ることの大切さに気づかされました」(サヘルさん)(撮影:尾形文繁)
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