北朝鮮の「ミサイル発射」と「株価」の奥深い関係 投資家は地政学リスクに敏感に反応している

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一見シンプルな集計に見えるかもしれませんが、この結果を導き出すまでの工程は意外に複雑です。3月24日のミサイル発射は日本時間の午後2時34分ごろでした。東京証券取引所(東証)では株式が取引されている時間であるため、ミサイル発射のニュースは24日の当日の株式市場に反映されます。

しかし、ミサイル発射が午後3時を過ぎた場合には、東証での取引はすでに終わっています。そのためミサイル発射ニュースは翌日にならないと相場に反映されません。このように、発射の影響が翌日になる場合には、当日ではなく翌日の日経平均株価の騰落率を「発射の日」の平均値の集計に含めました。

この集計結果のポイントは、単に“ミサイル発射の日は株安になる”というだけではありません。2019年以降、発射の日の騰落率の平均は-0.16%と、株安の傾向が強くなっているのです。

投資家は「地政学リスク」に敏感だ

さらに、発射日よりも翌日のほうが平均値のマイナスが大きくなっていることがわかります。2019年以降で見ると、発射当日は-0.63%だったのに対し、当日は-0.16%と、よりマイナス幅が拡大しています。

では、ミサイル発射の影響は、発射後何日後までの株安に影響するのでしょうか。そこで、図2にて発射から2日後の集計をしてみました。

その結果、日経平均株価の平均騰落率はプラス。6割の日で株価が上昇しています。これは発射当日から2日も経てば、リスクが軽減したと判断されたと考えられます。

こうした集計結果から、北朝鮮からミサイルが発射されたら、当日と翌日で株価が下がったところで2日後に投資する戦略が考えられます。

このように、ある地域で政治的、軍事的、社会的な緊張が高まった場合、その地域から近い国で経済や社会の先行きが不透明になることは「地政学リスク」と呼ばれます。ミサイルの発射で株安になるのは、一般にはこの地政学リスクが原因だと整理できます。近年、海外投資家を含めたグローバルな視点で見ると、投資家はこれまで以上に地政学リスクを回避する姿勢を強めているといえるでしょう。

吉野 貴晶 ニッセイアセットマネジメント 投資工学開発センター長

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よしの たかあき / Takaaki Yoshino

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で、記録的となる16年連続で1位を獲得した後、ニッセイアセットマネジメントに入社。大学共同利用機関法人 統計数理研究所のリスク解析戦略研究センターで客員教授を兼任。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(MBAコース)で経営戦略、企業評価とポートフォリオマネジメントの授業の教鞭も取る。代表的な著書に『No.1アナリストがプロに教えている株の講義』(東洋経済新報社、2017年) 。

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