「有楽町線」「南北線」路線延伸を財政が支援した訳 東京メトロと国、東京都の三者三様の思惑とは

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東京メトロ株式は、国が53.42%、東京都が46.58%保有している。かねての行政改革の経緯で、東京メトロは地下鉄のネットワークがほぼ概成して路線運営が主たる業務となる時点において完全民営化する、つまり国は株式を完全に民間に売却することが大方針として掲げられてきた。

そうした中、2011年の東日本大震災の復興のために発行した復興債の償還費用に、国が保有する東京メトロ株式の売却収入を充てることが、復興財源確保法で定められた。

したがって、国は復興財源を捻出するために、いずれ東京メトロ株式を売却することが確定的となっていた。焦点は、いつ、どれだけを売却するかである。

東京メトロと東京都の思惑は?

そこで関連してくるのが、前掲の路線延伸である。東京メトロは、すでに完全民営化の方針が示されていることから、それを前提に経営しており、費用がかさんで財務を悪化させる新線建設は請け負いたくない。逆に早期の完全民営化によって民鉄並みの経営の自由裁量の拡大を望んでいる。だから、東京メトロ株式は、できるだけ早期に売却してほしい意向である。

都営地下鉄を運営するもう1つの株主である東京都は、かつて東京メトロと都営地下鉄の統合を目指した都知事もいたが、今ではその考え方は後退し、前掲の路線延伸については、東京メトロが事業主体となるべきと主張した。東京都は、路線延伸を含む鉄道ネットワークの充実・活用が不可欠としており、東京メトロが新線を建設するなら、東京都は東京メトロ株式を保有し続けることに強くこだわらなくなっている。

こうした国、東京都、東京メトロの思惑の中で、地下鉄のネットワークがほぼ概成したところで完全民営化との既定方針に従い、前掲の路線延伸が行われる間は、国と東京都の両者で株式の2分の1を保有することが適切であるとの方針を、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会と、前掲の財政制度等審議会の答申で確認した。

別の言い方をすると、路線延伸が行われる間は、東京メトロ株式の半分近くは、民間に売却する方針を打ち出した、ということでもある。国としては、東京メトロ株式の売却収入は、復興債の返済財源の重要な一部である。株式の早期売却は、東京メトロも望んでいる。

他方、財政投融資からの融資も含め、国として路線延伸を支援することを通じて、東京メトロが懸念する建設費の財務への影響を緩和するとともに、東京都が望む鉄道ネットワークの充実に道を拓くこととなった。

今般許可された延伸事業には、建設ルートの確定や利害調整などまだ残された課題がある。政府が財政的にコミットしたわけだから、円滑に建設工事が進み、延伸した路線が多くの乗客に利用されることを願う。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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