伊佐山:大企業の中のプロジェクトを引っ張っていける人はけっこういますが、ベンチャー的なリソースの限られた環境でリーダーシップを発揮できる人は少ない。いるのかもしれないけど、つぶされるか、もしくは転職しちゃっている。アップルとかグーグルとかに引っこ抜かれちゃっている。失敗してもいいからやろうぜっ!ていう人は報われないんですよ、日本の大企業では。
入山:ソニーの中だけでやると、このスマートロックもできなかったんでしょうね。
伊佐山:WiLは、ある種の外圧なんです。大企業ができることはたくさんあるし、イノベイティブなものを作れる人も100%そろっている。なのに、それを、その使われていない資産を回す仕掛けがないわけです。WiLは、いわゆるハゲタカファンドのようなものではなく、身内として、フレンドリーに一緒にやっていく。失敗した場合にも、評価マイナスが付かないような仕組みを作りながらやっていけば、やはりいろいろなことが動き出すはずです。
こういうものが、ぎりぎり年末にひとつできたので、ソニーだけじゃなくて、日産自動車、ANA、NTTなどの大企業でも、これからどんどんやっていきたい。こうした企業は、みなさん、早くやりたい、と言ってくださっているので、なんとかこちらも対応をしていきたい。これこそが、たぶんWiLが考えている「日本型イノベーション」のあり方だと思っているので。
入山:日本型イノベーション、これはめちゃめちゃ面白いですね。話を聞いて、大事なポイントだと思うのは、WiLが合弁事業の株式の60%を持っているということですね。最後の責任はWiLが持つ。経営はWiLが行い、そこでソニーの技術を使うという発想だから、非常に早く動ける。
伊佐山:オーナーシップに関しては、単に僕らがいっぱい持ちたいからではない。ソニーから独立したプロジェクトとすることで、ガバナンスをきちんと効かせることができるわけです。
入山:このプロジェクトがものすごく革新的なのは、アメリカと真逆なことでしょう。アメリカではベンチャー企業がなにか新しい技術、面白いことやり始めて、ワーッてやる。しかし彼らには経営ノウハウがないし、ネットワークもリソースもないので、そこにたとえばシスコ、インテルのような経営ノウハウ、リソース、ネットワークを持っている大企業が加わり、大人目線でこうすれば儲かるんだよっていうことをハンズオンで教えていく。そこにいろいろイノベーション起きているわけです。
でも、伊佐山さんが仕掛けていることは全く逆で、大企業にリソースがあるのに、ベンチャーのマインドセットがない。それを逆にWiLがやろうとしている。完全に真逆のベクトルのことをやろうとしている。
日本型イノベーションとは?
伊佐山:そうですね。だからこれは日本型イノベーションと呼んでいるのです。これはアメリカのものまねじゃない。アメリカのシリコンバレーでは、あのスタイルが機能する。でも、あのスタイルをただ日本に持ってきてまねしても、うまくいかない。日本は優秀な人が会社の中にいる。それに対し、アメリカの場合は会社の中にいないから、みんな外に求めているわけです。だからこそイノベーションの仕掛け方も僕は変えなきゃいけないと思うんですよ。
今回はこちらとしても発見がたくさんありました。6カ月前のスタート時点ではソニーの人たちは明らかに警戒していました。おそらく、「こいつらを信用していいのだろうか」と思っていたはずです。
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