入山:それそうだろうと思います。技術情報を見られてしまうわけでしょうから。
伊佐山:そう。「うちの技術を開示したり、提供したりして良いのですか」という具合に警戒していた。でも、僕らも一生懸命、やりたいことを説明する中で、1カ月たって2カ月たって、少しずつ打ち解けていきました。そうすると、次々にアイディアが出てくるんです。これもできる、あれもできる、という具合に。
やろうよ、やろうよ、と僕らはどちらかといえば肯定することから始めるので、そこはアメリカ的なわけです。ダメ出しから始めない。まず、やってみよう、と。いいところをどうやって引き出すか、というマインドで会話を進めていってやっていくので、これがいいのだと思います。
ソニーだけではないと思いますが、社内にはエンジニアの先に、営業部門があって、マーケティングの部門がある。相当シニアになってからでなければ、こうした部門をまたがったことをやれない。つまり、文系理系は職場の中で混ざらない。だけど今回、若手のエンジニアは、マーケティングの話にも参加し、プロモーションビデオも作った。そして当然、ビジネスプランも書くわけです。おそらく、若いエンジニアは、そうした経験をすることは少なかったと思うんですよ。
入山:ちょっと前まで、日本では企業内ベンチャーが流行ったじゃないですか。でも、あれで成功しているものってほとんどないですよね。もうスープストックトーキョーぐらいではないか、といった感じで。
伊佐山:社内ベンチャーの制度は、自前主義でやるからうまくいかない。ボクらは、ニュートラルの立場で、いろんなプロジェクトに足りていない ピースを埋めることができる。特に一番大事なのは、どんなプロジェクトであれ、それが一事業としての独立事業としての採算性が合うか、スケーラビリティがあるかっていうものを評価して最終的にやるわけで、単なる慈善事業としてはできないわけです。
入山:契約や出資比率などのスキームは、アメリカでやっていた頃よりもさらに気を使うのではないですか。
伊佐山:もちろん気を使っています。アメリカの場合は、基本的に自分のことしか考えない、悪く言えば、いかに自分に有利なように出資するかを考えればいい。でも、しっかり大企業と組むためには、我々が大企業の社員だったらどう思うか、法務部長だったらどういうふうに考えるか、資材部長だったらどう考えるかっていうのをきちんと考えながら進めていく必要がある。
本部長クラスを巻き込めるかどうか
入山:大企業との取り組みを進める上で、中間管理層の意識が問題になる場合がある。イノベーション起こすときには、若い人にポテンシャルがあって、トップもそれを採用して変えたいと思っている。だけど、一番抵抗をするのは、たとえば本部長などのクラス。そこをクリアできるかどうかが、日本型イノベーションのカギのように思います。
伊佐山:そうです。難しいところは、中間管理職をどういうふうに説得するか、です。今の中間管理職はバブル世代で、人数が多い。平成元年入社組が今、50歳台ですが、銀行とかだと同期が1000人以上もいる。そんな環境であったら、誰でも失敗したらいきなり出向させられちゃう、みたいな恐怖を持ってしまうように思います。
かといって、多くの人がいることは事実。アメリカ的に、この1000人は要らないんだ、と首を切って、冷酷な資本主義の世界でやるのか、といえば、それはやはり日本では難しい。僕はそこは日本的にうまくやりようがあるんじゃないかって思っているんです。つまり、一般的に嫌われ者になっている中間管理職にも前向きにこういったベンチャーのプロジェクトを支援してもらう仕組みがつくれると。
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