ピケティ「21世紀の資本論」に対する疑問

資本の定義に矛盾あり

このデータから、日本で不平等が米国ほど拡大しない要因は、賃金所得の伸びが米国ほどひどくないからと言えるのではないか。ただ、日本でも賃金所得は多少は伸びているが、カルロス・ゴーンさんが日産社長を辞めれば、落ちるかもしれない。

株価最大化を目指す経営方法の問題にも触れている。各国における「トービンのq(会社の株式価値と資産簿価価値の比)」の推移についてピケティは5章にグラフを提示している。1980年代以前は米、英、独、仏、日、加のいずれも100%以下で株価が最大化されていない。

1980年代以降、特に米英でこのトービンのqが一気に上昇。株主資本主義、エージェンシー理論をベースにしたコーポレートガバナンス論が出てきて、株価最大化が至上命題となったことを反映している。米国では2000年には140%を超え、いったんITバブルやリーマンショックで下げつつも、また戻ってきている。英国とカナダも同様だ。

日本やドイツもトービンのqは上がっていて、株価最大化の方向にはなってはいるが、まだ60%前後で推移しており、次元が違う。2つの異なる資本主義があったことがわかる。フランスはこの中間にあたる。

米国では資本所得は伸びていない

重要なことは、米国では株価は大きく上がったが、資本所得は伸びていない。株価が上がった恩恵は株主よりもスーパーマネージャーに行ったということ。そうなると、不平等の要因はコーポレートガバナンス、経営の違いだと言える。

2つの資本主義の存在を明らかに示しているこの重要なデータに関して、なぜかピケティはあまり議論をしていない。次ページでは、2つの資本主義に関するいくつかのデータを補足してみよう。

1991年の吉森氏のアンケート調査からも異なる資本主義の形態が見て取れる。「会社は誰のために存在するのか」という問いに対して、英米の回答の大半は、もちろん株主のため。日独の回答の大半は全利害関係者のため。不況になったときには英米は雇用を切って配当を優先。それに対し、日本は雇用優先。ドイツは日本よりは傾向は弱いが、やはり雇用優先である。

アンケート調査は、単に経営者の「建前」を示しているだけだというありえる批判に対しては、私が作成したリーマンショック前後の各国の製造業部門の労働分配率(ここでは単位費用で代用)の動きを見て欲しい。それは、英国を除き、どの国もアンケート調査を裏書きする動きを示している。

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