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いほり・としひろ●1952年生まれ。2015年4月から現職、東京大学名誉教授。15年に発売した『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』がベストセラーに。(撮影:今井康一)
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財政政策を考える際には、景気対策としての財政政策と、成長戦略としての財政政策をはっきり分けることが重要です。多くはこれらを混同している。これが、経済学的な議論と一般の方の議論とがかみ合わない理由です。
経済には好不況の波があります。トレンドとしての成長率より上に行ったり、下に行ったりする。それを安定化するために行うのが、景気対策です。言い換えれば、一時的な需要不足への対処策です。ケインズは、不況時に政府支出を増やし公共事業をやれと提唱しましたが、その根幹は今も変わりません。
ポイントとなるのが乗数効果です。たとえば政府が公共投資を1兆円増やすとします。そうすれば国内総生産(GDP)も同額増える。問題はその後に民間がどれだけおカネを使うかですが、それは理論的には限界消費性向で決まります。そうして雪だるま式に需要が増えていくと考えられます(厳密には1から限界消費性向を引いた限界貯蓄性向の逆数)。
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将来不安によって乗数効果が低下する
よく「穴を掘って穴を埋めろ」といいますが、景気対策の場合、政府支出の中身は問われません。大仏を作ってもいい。おカネが落ちて、経済が回り出すことが重要です。政府としては人を雇うよりもモノを作るほうが介入しやすいので、その手法は公共事業が中心になります。
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