ポールソン回顧録 ヘンリー・ポールソン著/有賀裕子訳 ~リアルに再現される苦闘の2カ月半

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絶望的な心情も吐露

記述は2008年9月4日の朝から始まる。ポールソン長官がブッシュ大統領に会い、住宅市場の崩壊で危機に面した住宅金融会社のファニーメイとフレディマックの救済について説明する。そして、08年11月19日で、本書は終わる。この日、ポールソン長官はブッシュ大統領を訪ね、最大の金融機関シティグループが破綻の瀬戸際にあることを説明する。大統領は「これまでに実施した政策によって金融機関の動揺が収まったものと考えていた」と、動揺を隠せなかったという。

本書の最大のハイライトは、リーマンブラザーズ破産申請に至るまでのドラマである。なんとしても同社の破綻を避けようとする必死の努力は、バークレイ銀行が同社の買収を断念して打ち砕かれる。英財務省が買収を認めなかったのである。長官は「イギリス政府に一杯食わされた」と、怒りよりも焦燥から口走る。もはや同社を誰も救済する当てがなくなったとき、長官は妻に電話をかけ、「金融システムが崩壊したらどうなるのだろうか。恐怖で胸が詰まりそうだ」と、絶望的な心情を吐露する。重大な責務を負った責任者の心情が至る所に語られている。

スタッフの協力があったとはいえ、記されている状況は極めて具体的で、関係者の言葉がリアルに再現されており、下手なビジネス小説をはるかに凌駕する臨場感に満ちている。

金融危機は去ったかのように思われる。著者は、自らの体験から、再び金融危機が起こることを阻止するための四つの提言を行っている。それは傾聴に値する内容である。本書は金融問題や金融危機の研究家にとって必読であるだけでなく、金融とは無縁の一般読者にも十分に楽しめる本である。

Henry M. Paulson,Jr.
1946年生まれ。ダートマス大学卒業。ハーバード・ビジネススクールにてMBAを取得後、国防総省入省。74年ゴールドマン・サックス入社、98年同社CEOに就任。2006年ブッシュ政権の財務長官に就任。オバマ政権に移行した09年1月退任。

日本経済新聞出版社 3360円 583ページ

  

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