大日本印刷が直面する「印刷」の危機、電子書籍に活路はあるか《新「本業」で稼ぐ》
稼ぎ頭交替の裏にある「紙媒体」の危機
この反射防止フィルム、市場拡大とともに、10年もかからず売り上げ推定1000億円規模に成長(プロジェクションスクリーンなども含めた光学フィルム全体の売り上げ)。しかも、世界シェア7割と圧倒的なポジションを確保しているため、収益性も高い。印刷業界2強の一角、ライバルの凸版印刷もこの事業に力を入れているが、先行した大日本印刷の優位性は簡単に揺るぎそうもない。
11年3月期も、出版・商業印刷を中心とする情報コミュニケーション事業は厳しい状況が続いているが、反射防止フィルムのほか、液晶ディスプレー向けカラーフィルター、半導体向けのフォトマスクといったエレクトロニクス事業が好調で、連続営業増益を見込む。
こうした稼ぎ頭の交代劇には、印刷業界を支えてきた「紙媒体」の危機が色濃く反映されている。
紙媒体の主要顧客である出版業界の売上高は、96年の2兆6564億円がピーク。09年には1兆9356億円と、21年ぶりの2兆円割れとなった。雑誌の相次ぐ廃刊、部数の不振は、印刷業界に大きな打撃を与えている。
「印刷業界全体がシュリンクしている。もともと雑誌の受注が多い大日本印刷、凸版印刷、共同印刷などの大手は、この分野の落ち込みが大きい。下請けをしている小規模の印刷会社はさらに厳しい」(日本印刷技術協会研究調査部長の郡司秀明氏)
さらに、チラシやカタログなどの商業印刷は、リーマンショック以降の景気悪化で、顧客企業の広告費削減が直撃している。この分野は差別化の難しいオフセットによる大量印刷が中心となるため、各社の受注競争から単価下落が進み、収益率も低下している。また、ビジネスフォームと呼ばれる帳票類の印刷は、通知物の電子化が進んでおり、ここも縮小傾向にある。
既存の印刷事業だけでは売り上げ拡大が見込めない中小の印刷各社は、差別化できる新領域を模索すると同時に、人件費や原材料費など、身を削るようなコスト削減を余儀なくされている。