──ケニアでのプロジェクトの前に、まず「トイレ愛」について伺います。いつ頃、トイレに目覚めたのですか。
山上:きっかけは小学生時代です。2年生のときになぜか頻尿になりまして、授業の45分が我慢できないほどでした。出かけるたびにトイレを探す、まずトイレに行ってから次の行動を起こすというように、いつもトイレのことばかり考えていて、だんだん「きれいなトイレは最高だ」「トイレットペーパーがないトイレは最悪だ」と、トイレを評価するようになりました。
頻尿が治ってしばらく「トイレ愛」のブランクがあったのですが、大学で建築を勉強し始めて、あらためて建築のパーツとしてトイレを見たときに、私はほかの人よりトイレが好きだ、詳しくなれると思い、建築の中でもトイレに焦点を絞っていきました。学部生のときには「多目的トイレ」の研究を、大学院では「接触温熱感」の研究をしました。
──LIXIL(当時はINAX)に入社してからはどんなことを?
山上:トイレの研究開発なら私しかいないという意気込みで、2003年に入社したのですが、生産管理システムの部署に配属されました。本社がある愛知県でトイレの生産にかかわるシステムをずっと作っていて、今の部署(総合研究所新事業創造部グローバル環境インフラ研究室)に異動したのは2013年4月です。
──10年間、「トイレ愛」は枯れなかったのですか。
山上:最初はトイレの企画や開発に携われないなら辞めよう、転職しようと考えていたのですが、開発の人たちから、トイレにどういうこだわりがあって、どういうふうに作られるのか、話を聞くことはできたのです。
たとえば「お掃除リフトアップ」の機能について聞いた話を、私が工場案内するときに一般の方に説明すると、「こんな機能、最高だ」と言われる。うれしくなって、どんどん開発の人のところへ行って話を聞いたり、自分なりにトイレのことを調べたりするようになりました。
また会社とは別に、好きな山登りと英語の勉強を兼ねて、愛知県のインターナショナルハイキングクラブに入りました。メンバーは外国人が半分ぐらい。そこでトイレのことをいろいろ質問されるのです。「日本のトイレはボタンが多すぎて流せない」とか、「なんでシャワーでお尻を洗うんだ?」とか。
暖房便座に感動する人もいれば、人が使った後みたいで嫌だと思う人もいるんですよ。私も、なぜ日本ばかり暖房便座が普及するのか不思議だったのですが、欧米はセントラルヒーティングで家中が暖かいから、わざわざ便座だけ温める必要がないとか、いろいろな違いがわかって面白い。みんなに面白い話をしたいから、開発の人のところへ小ネタをつかみに行く。トイレについて知れば知るほど、トイレに対する愛や会社への愛が高まっていきました。
世界で25億人がまともなトイレを使えていない
あるとき、世界中で25億人が「安全で清潔なトイレ」のない生活を送っているという事実を知ったのです。世界には貴重な水資源を使えない地域がたくさんあって、ビル&メリンダ・ゲイツ財団やWTO(ワールドトイレットオーガナイゼーション)という組織が、世界のトイレ問題を何とかしなければいけないと動いている。それなのに私がやっているのは、水を使うトイレを世界に広げていくこと。そこに矛盾を感じました。
でも、当社がグローバルに展開していくにあたって、水を使わないトイレの需要が世界中にあるはずで、もしかしたら25億人が顧客になるかもしれない。ここを放っておいていいのかと悶々としていた2012年の秋に、「トイレ? 行っトイレ!~ボクらのうんちと地球のみらい」という企画展の準備プロジェクトチームが社内で立ち上がりました。今年夏に東京・お台場で開催されたイベントです。「そんなにトイレが好きだったらプロジェクトチームに入ってみたら」と声がかかり、参加させてもらいました。ほかのメンバーはトイレの研究開発や企画をしている人ですが、私だけ「トイレ愛好家」というポジションで。
──トイレ愛好家(笑)。
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