「空飛ぶトイレ」「グリーントイレ」って何だ? 極楽トイレから世界の屋外排泄を考える

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王子製紙ネピアが東ティモールで支援して作ったトイレ

トイレの不備が原因で亡くなる子どもたち

世界のトイレ問題を解決するために動いているのは、トイレメーカーだけではない。トイレットペーパーを製造・販売する王子製紙ネピアは、売り上げの一部をユニセフに寄付して、東ティモール民主共和国にトイレを建設する「nepia千のトイレプロジェクト」を2008年にスタートし、毎年1000以上のトイレ作りを支援している。同社商品企画部の大堀英子さんはきっかけをこう話す。

「2007年当時、汚れた水とトイレの不備が原因で、命を落とす子どもたちが世界中で年間150万人いるとユニセフから話を伺いました。今は年間70万人にまで減ってきていますが、それでも1日に換算すると1400人が亡くなっています」

東ティモール限定なのはなぜか。

「国の規模が小さくて、支援の成果が見えやすいからです。広くて人口が多すぎるインドやアフリカなどの国では、ネピアの支援規模でやっても成果が見えにくい。継続するためにも背伸びはできないので、会社の体力に合った支援をしています」

東ティモールは、日本と同じアジアにある国。2002年に独立した非常に若い国だ。人口約115万人に対して18歳未満の人口が61万人(2011年)。そして、トイレで排泄する文化がなく、屋外排泄が当たり前という。

「豚を飼っている家は豚小屋で済ませたりもします。靴を持っていない子どもが多く、裸足で排泄物だらけの屋外で遊んで、そのまま家の中に入ってしまう。だから下痢を起こして脱水症状になり、亡くなる子どもが多い」

だが、単にトイレを建設すれば解決するというものではなかった。プロジェクトを開始した最初の2年間は、コンクリートでできた比較的立派なトイレを作る「資材提供型」の支援をしていたが、村民たちはトイレの重要性をわかっていなかった。トイレが壊れても資材を買うおカネがないので修復しない。結局、ほったらかしになり、屋外排泄に戻ってしまった。

呪いのせいで子どもが死んだ!?

「いちばんの問題は、なぜ病気になるのかを正しく理解していないこと。たとえば、隣村のあいつが呪ったから、うちの子どもが死んだんだと考えている。そういう世界なのです」

そこで、まず衛生に関する知識を教え、トイレの必要性を気づかせる啓発活動にプロジェクトの重点を切り替えてワークショップを始めた。

ワークショップは視覚的に見せることがポイントという。たとえば、村民たちに村の地図を描いてもらい、「みなさんがいつも排泄している場所に、黄色い粉を置いていってください」と言う。すると、地図全体が真っ黄色になる。「村民同士で、『おまえ、なんでうちの裏でやってるんだよ』といった会話が始まります」。

ワークショップの様子

このようなプロセスを経て、住民たちの意識を変え、トイレの必要性を理解させる。そのうえで、村民が手に入る資材を使い、自分たちでできるトイレの作り方を教えた。

トイレの穴を掘る

「上下水道はないので、穴を掘って、両サイドに板をひいて、フタするという簡素なものです。直径、深さが2メートルぐらい。それがたまってあふれたら、また別の穴を掘って新しいトイレを作ります」

そんなトイレでいいのだろうか。

「まずはひとつの場所で排泄することが大事なのです。そこらじゅうで排泄する習慣をやめないといけない。2メートルぐらいの穴を掘れば、6人程度の家族で数年は持ちます」

トイレが完成

このプロジェクトで2008年度から2013年度までに建設したトイレは約7000近く。5歳未満児死亡率は出生1000人当たり67.7人から56.7人に、乳児死亡率は56.0人から47.8人に減少した。しかし、まだまだトイレが足りない。

世界を見渡せば、トイレがないために子どもが大勢亡くなり、女の子が日夜危険な目に遭っている。一方、日本のトイレ空間はほとんど極楽の域に達した。日本人が“触れずに簡単に流す”わけにはいかない問題だ。

上田 真緒 ライター、編集者

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うえだ まお / Mao Ueda

ビジネス誌、ビジネス書の編集者・ライター

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