「空飛ぶトイレ」「グリーントイレ」って何だ? 極楽トイレから世界の屋外排泄を考える

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山上:もちろん、安全・衛生の確保が大前提です。25億人がトイレを使えていないということは、女性はどうやって用を足しているか。自分の身を危険にさらしているんですね。家の中にトイレがないので、夜、屋外に出て用を足しに行く途中で襲われ、レイプされたりする。だから、女性は家の中でビニール袋などに用を足すのです。

スラムを汚染する「空飛ぶトイレ」の惨状

ケニアのスラムには「フライング・トイレット(flying toilet)」という言葉があります。「空飛ぶトイレ」。袋の中にしたし尿を処理する場所がないから、袋をしばって屋外に飛ばす。スラムは家が密集していて、その袋が鋪装されていない道に落ちていたり、屋根の上に乗っていたり、どぶ川に捨てられたりしている。どぶ川が袋でせき止められてしまうので、どぶさらいの仕事が発生し、さらったものは道に広げられるだけ。

ケニアのスラムの道を歩くと、すごくふかふかしているんですよ。そんな不衛生な道で子どもたちはどろんこ遊びをして、落ちたものを食べたりしますから、そりゃあ下痢をします。

学校にもトイレがないので、女の子は学校に行けません。ただでさえ用が足せないのに、特に生理のときはそもそも生理用品がないですし、あっても捨てる先がないということで、家にいることが多い。トイレがないせいで、学校にも行けない、仕事もできない。そうすると、早い結婚、妊娠となる。ケニアの場合、女性が結婚すると財産がもらえるのです。牛ややぎですが。

──さまざまな悪循環を「グリーントイレ」が変えるかもしれない。

ケニアで現地の人と研究開発する山上さん(右)

山上:はい。トイレの開発によってどんどん広がる可能性があることを、ケニアに行ってあらためて実感しました。

われわれの会社はトイレを作っていますが、それは上物だけで、後の処理は先進国であれば下水管、下水処理場に任されています。でも、新興国はそういったものがないので、そこまでの処理も含めて解決しなければいけない。まだ実証試験の段階ですが、ビジネスとして成り立つようになれば事業化していきます。

事業として考えた場合、新興国への攻め方は、ふたつあります。「節水トイレ」と、「グリーントイレ」である「循環型無水トイレ」。世界の大手グローバルトイレットメーカーは、アフリカをまだ市場ではないと思っているので、今、アフリカに入っているトイレメーカーは単にセラミックのトイレを作る技術があるだけのメーカーばかりです。1回に10リットルも水を流すような安いトイレしかケニアの人たちは手に入れられない。水がないのに、手に入る水洗トイレは10リットルの水を使うものだけ。ここを市場として見れば、われわれの「節水トイレ」を売り込むことができます。

ただし、インフラが整備されるまでの間は「循環型無水トイレ」を入れる。そして、インフラが整備されたら、「節水トイレ」に切り替えていく。インフラの向上に合わせて、よりよいものを買ってもらえるようにしていきたい。もし「循環型無水トイレ」で十分、満足度が高ければ、どんどん「循環型無水トイレ」を増やしていくというふうに、道をふたつ選べるようになります。

いずれ先進国に還元したい

──単なるボランティアではなく、25億人の市場に向けて大きな事業にしていくのですね。

山上:なぜ事業にしなければいけないかというと、やはりボランティアレベルだと「点」で終わってしまうからです。なかなか継続できない。でも、トイレの問題は永遠の課題なので、事業としてなり立たせいと「面」にならない。

私たちは、この新興国での研究開発を、いずれ先進国に還元したいと考えています。これを「リバースイノベーション」と言います。震災のときに日本のインフラは壊滅的なダメージを受けて、被災地の方々は水洗トイレが使えなくなってしまいました。この研究開発をケニアで成功させれば、地震の危機に直面したときに、街の中に設置することができます。日本ではインフラがすでに整備されていて、し尿処理に関するルールもたくさんあるので、なかなか設置できないのですが、ケニアで実績を積んで、アフリカ諸国にも広げて実績ができれば、非常時に日本の行政も考えますよね。

──なるほど。頑張ってください!

新興国ならではのスケジュール管理の甘さなど課題は山積みですが、しっかり取り組んでいきます。

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