「使い捨て」をやめて手に入れた「王侯貴族的生活」 「今あるもの」でいつまで生きられるのか?

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いやーこうして書き出してみると、改めてこの少なさに愕然とせずにいられない。当コラムではもう耳タコに「生きていくのに必要なものなんてほんのちょっと」と書かせていただいているが、その実態とはこのようなことである。

もちろん、これは私の場合なので万人がこうであるはずもないが、いずれにせよ誰でも「ものを使い切る」ことさえ実行すれば、このように「いったい自分がこれから死ぬまでにいかほどの買い物が必要であるか」ということがハッキリとわかるのである。

そしてそれは必ずや、あなたが考えているよりもずーっとずーっと少ないに違いない。つまりはほとんどの現代人は「今あるもの」だけで、少なくとも数十年は余裕で生きていけるはずなのだ。

そうとわかれば、実態のハッキリしない老後不安に怯える必要などない。何がもったいないって、貴重な人生の時間を、正体のハッキリしない不安に覆いつくされてしまうことである。不安とは正体がハッキリしないからこそ不安なのであって、まずその正体を見極めなければ始まらない。

そのためにはまず、自分に本当に必要なものは何かをちゃんと把握することだ。そしてそのためには、「ものを使い切る」という発想を人生に組み入れなければならない。

これなくしては、つまりはその時の気分に流されてなんとなく「買い替え」ていくようなことを漫然と繰り返していては、底に穴の開いたバケツに水をためようとするようなもので、水は入れても入れても永遠にたまらないばかりか、その水がたまらないという恐怖から生涯逃れられずに生き続けるという、どう考えてもつらすぎる人生確定である。

「使い切る」暮らしの超デッカイおまけ

あともう一つ。

私はこの「使い切る」暮らしで手に入れたのは、「もうこれで十分という満たされたオシャレな(自称)暮らし」&「老後不安の解消」だけではない。それだけでも十分凄いと思うけど、さらに超デッカイおまけが付いてきたのだ。

私は、圧倒的な時間とエネルギーを手に入れた。

買い替えをしないということを決めてしまえば、あらゆるコマーシャルに対する興味は一気にゼロとならざるをえない。となれば当然、あれを買おうかこれを買おうかという悩みや迷いに使う時間もエネルギーも一気にゼロとなる。

これがいかに大きなことか、私は自分が実際にやってみて初めてわかりました。逆に言えば、これまで私は人生の信じられないほどのたくさんの、というか人生のほぼほとんどの時間とエネルギーを「買い物」に関することに無限につぎ込んできたのである。

これが一気になくなった今、私は有り余る自由な時間を、ピアノを弾き、書を習い、本を読み、気の合う友人と会い、お気に入りの散歩道を歩き、銭湯にゆったりと浸かる……という王侯貴族のごときキラキラした暮らしに心置きなく使っている。

こんな暮らしをするために必要なのは「お金」だとずっと信じていた。そのために必死に稼がねばと信じていた。

でもそうじゃなかったのだ。必要だったのは時間とエネルギーだったのである。そしてそれは「買わない」ことによって一気にわが手中に転がり込んできたのだ。

いやはやなんということでしょう!

稲垣 えみ子 フリーランサー

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いながき えみこ / Emiko Inagaki

1965年生まれ。一橋大を卒業後、朝日新聞社に入社し、大阪社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員をつとめる。東日本大震災を機に始めた超節電生活などを綴ったアフロヘアーの写真入りコラムが注目を集め、「報道ステーション」「情熱大陸」などのテレビ番組に出演するが、2016年に50歳で退社。以後は築50年のワンルームマンションで、夫なし・冷蔵庫なし・定職なしの「楽しく閉じていく人生」を追求中。著書に『魂の退社』『人生はどこでもドア』(以上、東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

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