これがやきとり?驚きのメニューを出す店 飲食店に“個性”が求められるワケ

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ホールタイプはバースデーケーキそのもの

とはいえ、重要なのは料理の完成度だ。いくらサプライズで目立っても、実際の料理がおいしくないと、お客は離れてしまう。そこで、恐る恐る「ケーキやきとり」を実食してみた。なにせ、いくら「やきとりです!」と言われても、どう見てもビジュアルがデコレーションケーキなのだ。

マッシュポテトはなめらかで、ややしょっぱく、中に詰まった彩の国黒豚を使用したつくねを味わうと、素材本来のふくよかな甘みが広がる。試しに目を閉じて味わうとまぎれもなく、つくねとマッシュポテトが合わさった絶妙な味わいが感じられた。

藤本氏は言う。「そこが狙い目というか、こだわったところです。試作に数カ月かかり、ケーキということで、もちろん甘いバージョンも作ってみました。けれど、最終的には、やきとり店と聞いて来たらケーキが登場して驚き、さらに味わうとやっぱりやきとり、という2度のサプライズがあるという方向にシフトしたのです」

ちなみに通常のケーキではありえない、埼玉の東松山のやきとり店によくある“味噌だれ”や、今治から直送の甘い醤油だれ“甘ったれ”も「ケーキやきとり」に合うから面白い。

サプライズとハイコストパフォーマンス

昨今の飲食店業界における大きなトレンドは2つ。その1つが「サプライズ(驚き)」だ。現在、多くのチェーン系居酒屋が苦戦。先日も「和民」「わたみん家」などを運営するワタミが全国102店の閉鎖を発表したばかり。画一的なメニュー構成で全国展開することが売り上げにつながるといわれていた時代から、“個性”の時代へと業界も様変わりした。「そこにしかない。そこに行かなきゃ食べられない。楽しめない」というオンリーワンな店舗が人気を博している。

そして飲食店業界のもうひとつのトレンドが「ハイコストパフォーマンス」。いわゆるコストパフォーマンスというのは“お値打ち”。だがハイコストパフォーマ ンスは、単なるお値打ちのみならず、ハイ(high)=高い、つまり上質だったり高めな価格設定だったりするのだがそれ以上にお得感があるものをいう。

全や連総本店 東京は229席という大所帯も相まって、2013年3月オープンの初年度は年間売り上げが3億円。常にサプライズメニューを加えることで、色あせない店舗運営を図っている。やきとり3本の価格は540円~680円と、平均的なやきとり店よりも高めの設定。それでも、銘柄鶏などを用いている割にはコストパフォーマンスがある。もっとも、今回のような限定メニューでは各店とも採算度外視で攻めてくることが多い。

はんつ遠藤 フードジャーナリスト

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はんつえんどう / Hantsu Endo

1966年東京都葛飾区生まれ。東京在住。早稲田大学教育学部卒業。海外旅行雑誌のライターを経て、テレビや雑誌、書籍などでの飲食店紹介や、飲食店プロデュースなどを行うフードジャーナリストに。ライターとして執筆、カメラマンとして撮影の両方を1人でこなし、取材軒数は8000軒を超える。『週刊大衆』「JAL(Web)」などに連載中。また近年は料理研究家としてTVラジオ雑 誌などで創作レシピを紹介している。著書は『はんつ遠藤のうどんマップ東京・神奈川・埼玉・千葉』『おうちラーメン かんたんレシピ30』『おうち丼ぶり かんたんレシピ30』『全国ご当地やきとり紀行』(以上、幹書房)など。

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