英国式事件報道 澤 康臣著
売春婦殺人事件で被疑者や被害者を実名で報道するか匿名にするか。共同通信社会部に在籍した著者は、大衆紙ばかりか高級紙まで実名が一般的なイギリスで、事件事故報道を研究する機会を得る。そして記者、編集者の仕事ぶりと事件報道についての考え方を取材。警察や被害者支援組織からも聞き取りする中で、匿名と実名、その長所と問題点が浮かび上がる。
匿名報道は迫真性に乏しく、時に事件の本質さえあいまいにするというのがイギリス的考え方だし、実名報道が犯人逮捕につながることも期待される。人権侵害の問題は極めて重要だが、当事者が自発的に話をするようにもっていこうとする彼らの取材態度は貴重である。実名報道だからこそ「話が人間(ヒューマン)のことに」なり市民の関心・共感・連帯につながるという発言は、説得力がある。イギリスの報道合戦の実態描写も興味深い。日本の報道のあり方を再考するうえで示唆に富む。(純)
文芸春秋 1800円
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