子の「不慮の死」防ぐ事業に制約課す厚労省のなぜ モデル事業2年目、改訂された「手引き」で波紋

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警察と個人情報の壁。この2つをまとめて、独自に乗り越えようとする地方公共団体も出てきた。モデル事業に初年度から参加する滋賀県だ。

「われわれとしては、できないことの理由がわからん」

滋賀県のCDRを牽引している滋賀医科大学社会医学講座(法医学部門)の一杉正仁教授(52)は、厚労省の手引きの“後退”に強く反発している。「できないこと」とは、捜査情報と個人情報の利用を前提にしないという厚労省の新たな考え方を指す。一杉教授は、この改訂どおりにやると、CDRは完遂できないという。

「目的が達成できないので、非常に不適切です。滋賀県としては、今後もCDRをやっていきたいと考えています。そのときは(厚労省の手引きどおりにはやらず)個人情報も家族の同意なしで、司法解剖の結果も適切に使っていこうと全員の意見が一致しました。法的にも問題ないと確認しています」

滋賀県のCDRには、県警と地検も参加している。そのメンバーも含め、「全員一致」の見解だという。

滋賀医科大学の一杉正仁教授(撮影:穐吉洋子)

厚労省の方針変更で別のアプローチに変更

滋賀県でも、香川県と同様にモデル事業に着手する前から、助走のような取り組みが始まっていた。県死因究明等推進協議会の取り組みがそれだ。

この中で、子どもの死亡調査を実施。そうした経験が生き、1年目のCDRモデル事業は、過去3年間の18歳未満の子どもの死亡例131人分を可能な限り追いかけ、死に至る経緯を細かく調べることができた。検証だけでなく、シーンごとの予防策の検討にも力を入れた。提言を知事に提出し、「非常にいい結果が出た」と関係者も手ごたえを実感したという。

ところが、2年目は厚労省の方針変更に伴い、遺族の同意を得ることとし、司法解剖の結果も捜査当局に求めない方式に切り替えた。すると、主治医を通じた協力要請に対し、遺族から返事がないケースが出てきた。そうした場合、遺族の同意がないため個人情報を検証に使えない。

捜査情報を求めない前提となったため、司法解剖の結果も利用できなくなった。それを補うため、滋賀県では、司法解剖に回るまでのカルテや行政への提出書類など、別のアプローチで必要情報を収集する、裏技のような手段で切り抜けるしかなかった。

こうした事態を受けて滋賀県は、CDRにおける個人情報の取り扱いや司法解剖結果の使用などの関係法令について、法律の専門家も交えて詳細に検証した。その結果、いずれについても、法的には「問題なし」との結論になったという。

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