子の「不慮の死」防ぐ事業に制約課す厚労省のなぜ モデル事業2年目、改訂された「手引き」で波紋
こうした中、厚労省はモデル事業2年目を前にした2020年度末、「警察の捜査情報」と「個人情報」を利用しない前提でCDRを進めるとの方針を明示した。1年目には示していなかったことから、それまでの姿勢を後退させたとも受け止められ、「実現はいつになるのか」「結局、実現しないのではないか」と懸念も出ていた。
ところが、モデル事業に取り組む9道府県は、必ずしも、こうした厚労省の姿勢に縛られていたわけではないようだ。実際、警察がCDRに積極的に参加しているところもある。その1つが香川県だ。
香川県子ども家庭課の担当者は「県警に参加をお願いしに行ったところ、すぐにOKが出ました。スムーズに話が通って県警の参加が決まりました。CDRは虐待にも関係がありますから」と言う。
香川県警はCDRに複数の部署から担当者を参加させている。他地域では「情報を共有してくれない」と批判の対象になりがちな警察が、なぜCDRに積極参加しているのか。
2021年度まで県警人身安全対策課次長を務め、現在、捜査第一課に所属する岡修司・次長(47)はこう語る。
「警察は、犯人を捕まえたり検挙したりがクローズアップされがちです。でも、もう1つ大きな柱として、『予防』があるんです」
人身安全対策課は児童虐待防止を担当している。岡次長によると、CDRが児童虐待に限らずに多様な問題を扱い、複数の機関が参加していることに警察にとっての利点がある。
「多機関が持っている資料を合わせることで、何か潜在的な問題が見えてくるかもしれません。潜在的な問題が見え、それを解決する術がモデル事業の中で見えてきたら将来の予防につながる。警察が取り組む予防という大きな柱にとっても、すごく意義があると思うんです」
モデル事業に参加して、多機関の担当者と交流を深めることができ、今後の連携面からもプラスだったという。
モデル事業が始まる前から関係ができていた
香川県警ではこれとは別に、4~5年ほど前から、さまざまな機関と協力する機会が増えている。検察、児童相談所、けがなどを診る病院などだ。
「警察には事件化したら終わりというイメージが昔はありました。今は、たとえ事件化できなくても、将来の家庭環境の構築が大事だ、ということにシフトしています。だから、それに関わる多機関の方々と話さないと、情報が偏ります。各機関で何ができるのかということも、警察は知りませんでした」
つまり、モデル事業が始まる前から、香川県警には他機関の業務を知り、困ったことについては改善を求めたり、歩み寄ったりする関係ができてきた。そのため、CDRのモデル事業に参加した機関の一部にも、警察に対する理解の蓄積があり、捜査情報を全て出せないことについて反発はあまり見られないという。
「警察が情報を出せないのは当然です。でも、どこまでだったら出せるかを、検事さんと話して(出せるものは出すとの判断もある)。CDRは守秘義務が課せられていますし、そもそも、参加する各機関の皆さんに公判を妨害するつもりなんてない。CDRには、子どもの事故や死をなくすという目的がはっきりしているわけですから」
「(警察も)いきなりシャッターを下ろさないほうがいいのでは。お互いにできることをやっていく。それを続けていけば、いい方向が見えてくるかもしれない」
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