超地味な「地理」が高校の必修科目になったなぜ 4月から登場する「地理総合」で学ぶこと

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だが、懸念もある。1つは長年地理を教えてこなかった教師が多いという点。教えてこなかっただけでなく、大学で地理を専攻した先生も少なく、暗記を主とする授業をするのであれば問題ないだろうが、それでは今回の学習指導要領が求める授業からは離れてしまう。

「防災は小学校からずっと学ぶ分野なので、生徒に飽きられないように高校では今、世界で起きている災害を題材にするなど、教科書に書かれていないものを取り上げるような工夫、先生のアンテナが必要だろうと思っています」(井田氏)。やっている先生はすでにやっているそうだが、全員にできるものとは思えない。

フィールドワークがどれだけできるか

文系科目とされる日本史、世界史をやってきた教師の中には地理情報システム(GIS:Geographic Information System)に苦手意識がある人もいるとも聞く。地図を重ねる作業は将来の災害、街づくりなどを考えるために役立つが、知らなければやりようもない。そもそも、高校の授業内容は教える教師に依拠するところが多いため、教師がやりたいところが優先されがちなのである。

また、地理総合はフィールドワークやグループワークなどを含むアクティブラーニングとして想定されている。地域に出て空き家問題、商店街の疲弊、人口減少などといった課題を考えるような授業を想定したときにそれを指導できる教師がどのくらいいるか。校長に許可を取り、地域に協力者を見つけて、生徒を連れて歩き……と考えると、ある程度社会と関わってきた教師でなければ難しい部分もあろう。

実際、同じ懸念を抱く人たちも多く、すでに地理学会など地理に関する学会はもちろん、日本都市計画学会、農村計画学会、土木学会などが連携、協働を表明している。学会や大学主催で地域調査の講座なども数多く開かれるようになっており、そうした講座に参加することで先生方も学んでいけば意図どおりの授業も実現していくはずである。

いくつか課題はあるにせよ、地理を学ぶことで空間からモノを考える姿勢は人生に役に立つ。スマホ全盛の時代、地図を見るよりスマホで点と点を線で結んだ最短距離を教えてもらうほうがはるかに楽だが、災害時にはその線が通れない道になることがある。その時に空間でモノを考えられる人のほうが強い。同じことは災害時以外にも起きる。

暗記ではなく、今の世界を知る現実的な科目として、新高校生の皆さんには地理を楽しんでいただきたいものである。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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