「オッドタクシー」に見る制作会社が生き残る道 「下請け」から脱却することが生き残る条件

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ただ読者諸氏に本当に伝えたいのは、ここからだ。なぜ広告やミュージックビデオで高い評価を得てきたP.I.C.S.が畑違いのアニメを企画したのか。そこには映像制作業界の行き詰まりがある。ドラマに映画、バラエティー番組、アニメにCM、最近だとウェブ映像。それらは同じ映像製作と言いつつ、それぞれまったく別個に発達してきて、ほとんど交流がなかった。

小戸川と彼につきまとうチンピラ・ドブこと溝口恭平(ゲラダヒヒ)、声優は浜田賢二(©P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ 配給:アスミック・エース)

「あるジャンルの才能ある人たちが映画やりたいドラマやりたい、アニメやりたいと思っていてもなかなかチャンスがない。せっかくいろんな才能があるのに、実現するのが難しいと感じていました。でも、小さくてもコツコツ企画を作っていくと、その周りにまた面白い人たちが集まってきてくれます。それを続けていって、チャレンジングな企画を形にして、いい循環ができればと思っています」(平賀氏)

今までどおりのやり方では分野の壁を突破できない。テレビ局が作るドラマは、既存の制作手法で固まっていてほかから入りにくいし、新しいものも生まれにくい。だから自分たちで企画から立ち上げ、さまざまな人々を巻き込んでいった。その結果、手がけたことがないアニメの企画に至った。

「権利」の獲得という意義

企画から立ち上げたことにはもうひとつ、重要な意義がある。「権利」の獲得だ。CMやミュージックビデオは受託制作で、制作費の中で利益を残す構造。映画やアニメでは制作会社が出資することも出てきた。だが限界も見えてくる。

「今、エンタメ業界全体が予算がないとか、コンプライアンスが厳しいとか暗い話が多いですよね。でも、苦しい現状を嘆いていても仕方ないので、新しい領域のノウハウを学んでビジネス窓口を広げたり、自分たちでコツコツIP(知的財産)を作っていったり、面白いと思えるものを作り続けられるように、できることにいろいろチャレンジしていきたいです。現場を知り尽くしている制作会社だからこそできるビジネスが、まだあるんじゃないかと思っています」(平賀氏)

韓国のエンタメ業界では、十数年前にテレビ局の力が弱まったときに制作会社が40%まで制作出資比率を高め、その分イニシアチブを握るようになったという。それが今のドラマ制作の世界市場での成功につながった。

日本の映像制作業界はこれまでテレビ放送を核にした巨大なエコシステムの輪に入って、与えられた制作費の中で利益を残す算段でやっていけた。よく言われる、「アメリカに次ぐ世界第2の市場」のほどよい大きさのぬるま湯に浸っていればよかった。

だが2010年代になり、エコシステムの成長は完全に止まった。じわじわ下がっていたのが、コロナ禍により下降が加速した。ぬるま湯に浸っていると、生き残れないことがはっきりしてきた。

テレビ局がいずれ危うくなることはよく話題に上るが、その前に映像制作業界が厳しくなる。どうサバイバルするかが問われているのだ。

平賀氏が言う「ビジネス窓口を運用するノウハウ」の蓄積は映像制作会社の避けられない課題だ。そして企画から立ち上げIPを自分たちの資産にすることにも、取り組む必要がある。「下請け」から脱却することがサバイバルの条件になってきた。

「オッドタクシー」は、海外で日本のアニメを配信するクランチロールにより海外でも人気を博している。アニメアワードで監督の木下麦氏は監督賞を受賞し、主人公・小戸川宏が主演キャラクター賞を受賞した。海外は制作会社の「権利」の突破口かもしれない。

テレビ局がどう生き残るかと同じくらい、個々の映像制作会社がどうなるかは日本のコンテンツ業界の課題だ。各制作会社自身は覚醒してほしいし、他業界からも注目してほしい。既存のエコシステムからの脱却を目指すときだ。そのための大きな資本も必要になるだろうと筆者は考えている。

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