人工地震を信じる人々が映す「陰謀論」深刻な浸透 「情報の民主化」は「偽情報の民主化」でもある

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これは1923年の関東大震災の直後に出版されてベストセラーになった『大正大震災大火災』(大日本雄辯會・講談社編)に収録されているエピソードだ。被害状況を伝える写真や記事だけではなく、噂話なども盛り込まれており、当時の世相が浮かび上がってくる。関東大震災といえば、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマで朝鮮人などが虐殺された事件で知られているが、「西洋で地震を起こす機械を発明」というデマを真に受けた人々が警察署に駆け込んでいたのである。

太古の昔、地震の原因は地下に潜む龍の仕業とされていたが、それが江戸時代になって鯰(ナマズ)に変わり、近代化の歩みにおいて「西洋の機械」へとシフトしたことには必然性がある。人々の不安の根源が超自然的な存在ではなく、列強と呼ばれる外部へと推移したからだ。ということは、陰謀論としての地震兵器の由来は少なくとも100年近く前に求めることができる。

21世紀に入って気候危機の問題が大きな焦点となる時代を迎え、温暖化の抑制を狙うジオエンジニアリング(地球工学、気候工学)への関心も高まる中で、人工地震を含む気象コントロールに関する陰謀論が予想外の力を持つことが懸念されている。

竜巻にも陰謀論

例えば、2021年12月にアメリカ・ケンタッキー州、イリノイ州など5つの州を襲った竜巻被害で、SNSでは「バイデン政権が気象兵器を使用した」とのデマが流布され、中国の気象兵器が引き起こしたとの説も拡散された。中国が以前から水不足などへの対応策として人工降雨などの「気候改変プログラム」を進めていることや、北京五輪の外交ボイコットを表明したなどの時期的な状況から、「季節外れの竜巻」という不条理の裏に何者かの操作を読み取ろうとしたことは想像に難くない。

今後、影響力のある人物、多様なプロパガンダメディア、訳知りのインフルエンサーなどが、このような自然災害を気象兵器による攻撃と断定して特定の国や集団を名指しする振る舞いが横行するようになるだろう。先の竜巻被害のような悪天候について、連邦緊急事態管理庁(FEMA)のディーン・クリスウェル長官が、「気候変動のために『ニューノーマル』となる可能性が高い」と警告したように、温暖化が進めば予期せぬ気象現象が頻繁に発生するとみられているからだ(“FEMA Official Warns Bigger Tornadoes the 'New Normal,' Linked to Climate Change” /2021年12月12日/Newsweek)。

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