人工地震を信じる人々が映す「陰謀論」深刻な浸透 「情報の民主化」は「偽情報の民主化」でもある

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特にジオエンジニアリングは、専門家の間でも評価が分かれていることもあり、研究や実験自体が陰謀の証拠と騒がれるかもしれない。気候危機の時代は、コロナ禍の陰謀論と同じく、より切実な脅威として認識され、世界中の人々を翻弄する危険性を伴っているのだ。

ここでわたしたちが自覚しなければならないのは、わたしたちが持っている心理的な傾向だ。わたしたちにはあらゆる現象の背後に行為の主体を見つけようとする心性が備わっている。これは人類が進化の過程で獲得されたものである。

木の枝が折れていたり、物陰から音がしたりといった周囲の環境の変化に、敵や捕食者などの知的な行為者の存在を直観することで、それが勘違いであったとしても生存戦略として有効だったために強く機能している。

真偽を問わず無敵の支配者を妄信するように

心理学者のジャスティン・L・バレットは、それが気象など自然界全般にも適用されるようになったと考えた。そして、この心の働きを「行為主体を敏感に検出する装置」(Hyperactive Agency Detection Device=HADD)と名付けた(“Exploring the Natural Foundations of Religion.”Trends in Cognitive Sciences)。

認知科学者のダニエル・C・デネットは、このような特性を踏まえたうえで、「過敏に行為主体を探す性向と、記憶に残るものと大好きなこととが結び付くと、虚構(フィクション)を生成する変わった仕組みが得られる。何か困惑を覚えることが生じる時はいつでも、(略)『仮説』を大量に生み出すことになる」と述べ、「人類のあらゆる神話に見出される聖霊(ニンフ)や妖精(フェアリィ)や鬼(ゴブリン)や悪魔(デーモン)は、私たちを困惑させたり怖がらせるものがあるところではどこでも行為主体を過敏に発見しようとする習慣の、想像上の産物である」(『解明される宗教 進化論的アプローチ』阿部文彦訳、青土社)と指摘した。

ただし、神という超越者の関与にリアリティをあまり感じられなくなった現代においては、この極めて強力な検出装置が対象とする領域は社会全体へと拡大されることになる。つまり、地震や噴火、洪水や寒波などを生み出している行為主体を、悪意ある中央政府や外国勢力、あるいは秘密結社などという「想像上の産物」に置き換え、わたしたちの生命や財産を破壊しようとしていると捉えるのだ。ネットを通じて伝染し増幅される恐怖は、真偽を問わず無敵の支配者を妄信するよう仕向ける。

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