ドワンゴ川上会長、「非リアは脳の問題です」 「ネットが生んだ文化」とは何か
山田: むしろそれをサポートする外部メモリとしてのアシスタント役が活躍することで、社会とのつながりを維持していたのでしょうね。ベートーヴェンやゴッホなどは、弟が支えていました。
川上: そうですよね。出版社の編集者の役割としても、そこの部分はきっと重要ですよね。特殊な才能をもった作者が社会とのつながりを持つのを助けるのも、たぶん編集者の重要な仕事のひとつのはずです。
昔は、よほど何かにのめり込んだ人たちだけがそういうコミュニケーション能力に欠陥まである状態になったのかもしれない。でも、今はもう万人(ばんにん)が情報の海の中で過ごしていて、多かれ少なかれ、みんなが同じような状態になってしまった。刺激的な言い方をあえてするならば、現代人は全員が"発達障害"なんです。程度の差こそあれ。
その中で、より程度の大きい人たちがコミュ障になり、必然的に非リアになっていく。そして因果関係としてはどっちが先かはわからないけれども、オタクになっていく。今こんなにオタクと呼ばれている人たちが増えていて、力を増している一番根源的な理由は、そこにあると思う。
そういう人たちは、友達がいないのはともかくとして、恋人がいない。そうすると、人間が本能として持つ性衝動の解決ができないので困るわけです。それで、たとえば二次元的なものにそういう対象が行ってしまう。このことが、世の中から、ある種、白い目で見られる原因になっています。
葛藤の中で非リアは生きている
川上: こういう非リアの人たちが、友達が多くて恋人もいるリア充たちに、潜在的な憎悪を持っているのは当然のことだと思います。ただ、一方でオタク趣味で救われていて、結構、彼らは充実していて幸せだったりもするんですよ。恨みを持ちつつ幸せな自分にプライドもある、そういう葛藤の中で非リアのオタクは生きているわけです。彼らがどんな気持ちでネットにいるのか、ということを理解しなければ、なぜネット内でよく炎上しているのか、なぜ彼らはこんなに怒っているのか、ということが一般の人にはわからない。
山田: これは日本特有ですか。アメリカではどうなんでしょう?
川上: 基本は同じだと思うな。ただそれが目に見えにくくなっているということでしょう。オタク文化が日本ほど発達していないし、市民権を持っていないんですよ。
山田: 隠されているんですね。
川上: そうです。たぶん迫害されているのだと思います。日本は世界の中でいちばん先行して文化が発展している国で、きっとほかの国もいずれ多かれ少なかれ日本みたいになると思います。
ただ、なにしろ彼らはコミュニケーション能力が低いので、社会全体から見るとまったく認知されていない。一部の人は知っているのだけれども、そういう意味ではまともに論じられてこなかったと思います。
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